第4話 貝殻と海と女子高校生

 京香は突拍子もなく、

「まだまだ時間あるし海行く?」

「行かないよ、着替えとかないし」

「別に入んなくても良いんだよ、ただ行くだけ」

 というと海へ向かい緩い下り坂の砂浜を進んだ、海へ一歩一歩足跡を残した。

 優里亜は京香の足跡を追って歩いたから、砂浜には靴を履いた動物の足跡が生まれた。

 複雑に腹をくすぐる甘い波音は、安定と焦燥が入り混じり、燻る不安を煽るようだった。

 磯の匂いは嗅ぎ慣れているが、近づいてよく嗅ぐ異国の匂いが混じっている、その香りは外国から遥々やって来たきた香りかもしれない。と海は人をロマンチストにする効果がある。

「見て優里亜、貝」

 京香は大きな巻き貝の殻を突き出した。人の拳以上ある大きな貝殻だった。貝殻の口は大きい耳みたいだ。

「でか、海の音聞こえるんじゃない?」

 京香は電話する様に耳に当てた。

「……本物の方が大きい」

「聞こえないの?」

「雑音? が聞こえる」

「陸地に行ったら波に聞こえるのかな」

「私の耳は貝の殻 海の音を懐かしむってね」

「何それ」

「昔、授業中にパラパラ見てたら乗ってたなんかいいなぁと思ってたら、覚えちゃったの」

 やはり海は人をロマンチストにするらしい。

 優里亜と京香は海へと向かった。

 陸と海の狭間に来たからといってする事は何もない。京香は砂浜に靴底を擦り動物の尻尾の後を作りながら聞いた。

「ねぇ後なんふーん」

「後さんじっぷーん」

「長すぎるてー」

 少し大きい波が来た。京香は一歩、優里亜は二歩後退した。

 白い波は京香のスニーカに接吻し、後退した。

 遅れてやってきた風が二人の髪を攫い、囁き通り過ぎた。

 京香はギリギリで波が当たらなかったスリルを求めて、湿った土地に立ち宣言した。

「よしここだ、この波はここで止まる」

「やばくない」

「大丈夫、止まーる」

 波はゆっくり焦らす様に減速して、スッと止まるか、それともスニーカーを濡らすか。京香は足を動かさずに身を引いた。

 波はスニーカーの底全体を半センチほど浸した。

「……ダメだったじゃん」

「優里亜もやろうよ、手前で濡れなかったほうが勝ち」

「えー……じゃあ少しだけ」

 一回だけと言ったが優里亜も京香も何度も波でチキンレースをした。どうしようもなく暇だったからだ。

 直射日光は熱いものの、常に風が吹くから体感ではベンチより心地良い。景色の良さもあるだろう。

 しばらくすればチキンレースにも飽きてしまう、シャトルランのように波を追っても、すぐ飽きる。宣言するでもなく複数の遊びは次第に入れ替わり、立ち替わっていった。

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