第3話 コンクリの壁を超える
優里亜と京香はコンクリの壁に体を寄た。今や塀は太陽の攻撃を避ける塹壕だ。塹壕の出来るだけ深い影に隠れながら進んだ。
いつもバスから見るだけの景色を歩くのは不思議だった。
優里亜は一人で待つのも暇で、京香についていくことにした。
「アイス食べたのに、袋を追って暑くなるってバカだよね」
「飛んでっちゃた物はしょうがないし、いい事でしょ」ゴミを回収するのはと続くのだろう。
コンクリの階段が次第に近づいた。
「ここ、ここ」
コンクリの壁を登る階段は、ポツポツ砂があって、踏むたびにジャリジャリと鳴った。
京香は一段飛ばしで、優里亜を追い越し壁の上にたった。
「どうせなら壁の上を行こー」
京香の言い方は、センスのある提案というより自然と口が喋った言い方だった。
優里亜は壁の上に立つと思わず息を呑んだ。京香が壁に上を行こうと言った理由がわかったからだ。
青い水平線の向こう側に、ガラスの膜の上に置かれた綿飴の様な入道雲があった。こうも暑いと綿飴も溶けて、少しやる気がなく見えた。空を気高く飛ぶ鳥は宇宙まで飛べそうだった。肉眼で見る景色は、バスの水垢のついたガラス越しより何倍も美しい。
優里亜はその情景をどうにか言葉にした。
「なんか急に遠いとこ来たみたい」
「それな」
京香は海を向き、クラーク博士のように海に指差した。しかし指の先には水平線の先まで何もない海だった。
「……でも暑い」
「それな」
とぼとぼ二人は壁の上を歩いた。
緩やかにカーブしたコンクリの壁の上は、陸上のレーンのようだった。
京香はずっと海を、その先を見ていた。
優里亜は海を見たり、アイスを買った商店を見たりした。いつも見ない視点は面白く、スリリングだった。
遂にバス停の真上まで来た。
「お、袋あんじゃん」
ゴミ一つない浜に、ポツンとあるアイスの袋はよく目立った。
「飛び降りるの?」
砂浜まではバス停よりは低いが人の背丈程の高さがある。
「当たり前じゃん」
京香は躊躇いなく飛び込んだ。砂がボフッと舞った。京香は前のめりになり、肩から斜め掛けバックに引っ張られ、前屈みに手をついた。前のめりはダサいなと口ごもった。
意を決して、優里亜も後を続いた。飛ぶというより落ちた。足が砂に刺さった。
柔らかい砂はクッションになったが、粒が細かく靴によく入った。
京香は袋を回収すると壁際により、靴の中の砂を片足ずつ捨てた。
優里亜は無器用に片足ずつ砂を捨てた。
「捨てたのにまだジャリジャリする」
「派手に飛び込むから」
と言った優里亜もジャリジャリした感覚をうざったく感じていた。
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