第8話 キールの素顔

 ローズの悲鳴と「殿下!」という近衛兵たちの叫び声が入り混じり、ゴンドラの上は混乱し大きく揺れたが、すぐに刺客は乗り移ってきた近衛兵により切り捨てられた。

 ローズが抱き止めたキールを駆け寄った近衛兵たちがゴンドラの床に横たえた。


「キール!」と叫ぶローズを別の近衛兵がゴンドラの端に遠ざけた。


 救護の様子を見守っていると、苦しそうに呻いていたキールが自分の手で顎の辺りを触って皮膚を剥ぐようにむしり取り、その下から目を閉じた人間と変わらない顔が出てきた。

 即座にキールを囲んでいた近衛兵たちも顔の皮を剥ぐと全員、麗しい美形に変わった。


 嘘でしょ! ローズは彼らを凝視した。


 ゴンドラがキールの宮殿に引き返す間にローズは拾ったマスクを観察した。皮膚に触れると人の皮膚と一体化する素材で出来ているからマスクだと気づかなかったのだ。


 ゴンドラが宮殿に着くとすぐにキールは宮殿内に運び込まれ、ローズも残った近衛兵に手を取られてゴンドラを降り、キールとは別の部屋に通された。


「ここでお待ちください」と言い残して立ち去ろうとする近衛兵をローズが呼び止めた。


 振り返った近衛兵も帽子で頭頂部が隠れ、美形男子にしか見えない。


「殿下の容態は?」

「マスクのおかげで一命は取り留めていらっしゃいます」

「さっきの刺客は誰? なぜ襲われたの?」

「まだそれは分かりません」


 ローズはキールのマスクを差し出した。

「このマスクはどういうこと?」


「それは水中戦用の戦闘マスクです。推進力を下げないように顔にフィットします。目は水中眼鏡と皮膚の電気を読み取って感情を色で示す役割があります」


「水中戦用なのにどうして陸上でもマスクを着けていたの?」

「それは我々の正装でもあるからです。陸上でも正式な場では身に着けることが多いのです」


「じゃあどうしてあなたたちはさっきマスクを取ったの?」

「王族がマスクを取ったら兵もマスクを取るのが礼儀なのです」

「ありがとう。何かわかったらすぐに教えて」

「はい。失礼します」

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