第9話 婚約破棄

 近衛兵が出ていくと入れ替わりにメイドが入ってきた。


「お茶をお持ちしました」

「ありがとう」


 メイドがカップにお茶を注いでいるのを見ながらローズが呟いた。

「あの刺客は私を狙っていたように思えるの」


 するとメイドの手元がわずかに震えお茶が零れた。


「大変失礼しました」と慌ててメイドが零れたお茶を拭いた。

「何か知っているの? 教えてちょうだい」

「わたしには」

「権限がないんでしょ? では噂話として教えて」


 少しためらった後、小声でメイドが話し始めた。


「ド―ス家の差し金だといわれています」

「なぜその方たちが私を狙うの?」

「キール殿下は元々ド―ス伯爵家のご令嬢カトリーナ様とご婚約間近でしたがそれを蹴ってあなた様とのご結婚を選ばれたのです」

「どうして?」


「それは存じ上げません。ただ、ド―ス家とカトリーナ様はそれはそれは嘆かれたようで、あなた様をとても恨んでいるそうです。

 何しろキール殿下は国中の令嬢の憧れの的ですから」


「あのカッ・・・たが?」

「はい。キール殿下は誰にでもお優しく、ハンサムで、誰よりも泳ぎがお上手で、お強い方ですから。あの、私から聞いたことは」

「もちろん誰にも言わないわ。ありがとう」


 部屋で一人になるとローズは考えた。


 キールがハンサムで憧れの的? 伯爵令嬢との婚約を蹴ってまで私と結婚しようとしたなんてよほどの国家機密があるのね。

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