第7話 惨めな人生と暗殺者
ローズの母親は彼女が十四歳の時に病死し、父の後添いとしてやってきたのがマルガリータ夫人と娘のゼルダだった。だが最愛にして最大の庇護者であった父も二年前に急逝した。途端に二人が豹変した。
父の葬儀の翌日から、ローズの部屋は屋根裏の使用人部屋となり、住み込みの家庭教師と古い使用人は全員解雇された。ローズはゼルダ専属のメイドにされ、朝から晩まで意地悪なゼルダにこき使われる地獄の日々が始まった。
ところが最近父の遺言によってローズは女法定相続人であり一年後の二十一歳の誕生日に正式に家督を継ぎ、女子爵になることが判明。そこで夫人は一計を講じた。
ある日ローズをお披露目と称してヴォート家のお茶会に同行させた。そこでローズはヴォート夫人自慢の温室に呼び出された。待っていたのは婚約者のヘンリーだった。
二年ぶりの再会にローズは悦びのあまりヘンリーに抱き着いた。ところが呼び出したのはヘンリーではなく、戸惑う二人の前へ夫人連中を連れたマルガーリータ夫人が登場。
夫人は家名を汚したとしてローズを糾弾し二人に結婚を迫った。
本来なら嬉しいところだがなんとヘンリーが拒絶。身の潔白の証明を迫られたローズは父の名誉と家名を守るため人身御供になることを受け入れた。
だが洞窟入り直前ゼルダがやってきてローズに囁いた。
「ヘンリーはあなたには持参金がないというお母様の嘘を信じて、私と結婚することを条件にあなたを陥れるのを引き受けたの。私は前からヘンリーが好きであなたが邪魔だった。この家もヘンリーも全部私のものよ」
ヘンリーまでもが自分を陥れたことに驚愕した。ゼルダが続けた。
「もっといいこと教えてあげる。つい最近、あなたに結婚を申し込んできた貴族がいたの。もちろん断ったわ。もう嫁ぎましたってね。だってあんたが私よりお金持ちになるのは許せないもの」と。
ローズは怒りで震えたが全ては手遅れだった。いまさら逃げ出せば父の名誉も家名も傷つく。それだけは避けたかった。
だったら潔く死のう。そう決意したのだ。
我に返るとローズはキールにこういった。
「私には私が死んで悲しむ家族なんていません。両親は既に他界しました。父の屋敷にいるのは、私を陥れて人身御供に差し出した継母とその娘だけです」
「なんと酷いことを。でもヘンリーがいるではないか」
そのヘンリーがあの母娘とグルだったのよ。けど彼の裏切りは不思議とショックではなかった。今思えば彼を好きになったのはどことなくあの彼に似ていたからなのだ。
それにしても河童と無理矢理結婚させられるのをゼルダが知ったら高笑いするでしょうね。自分が惨めに思えて涙が込み上げてきた。
その様子を見たキールの黒い瞳がグレーに変わった。
「ローズ、そんなに」といいかけたキールの瞳が黒く戻り「伏せろ!」と叫んだ。
その途端、アーチ橋の上から覆面姿の二人がローズとキールの間に飛び降りてきた。ローズに一人が切りかかった瞬間、間の一人を飛び越えてキールがローズに切りかかった刺客を背後から切りつけてからゴンドラに着地して男を運河に突き落とした。
残るは一人。だがバランスを崩して運河に落ちそうになったローズを咄嗟に助けようとしたキールを背後から刺客が襲った。
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