第6話 秘密の水上都市

 ゴンドラが出発する際改めてキールの宮殿を見上げた。


 外観はとても貴族的で美しく、このお城の女主人になったところを想像してみると悪くない。だがそのために河童と結婚する気にはならない。


 ゴンドラが町の中に入った。


「ここは王都、シティ・オブ・ロワイヤルだ」とキールが説明した。


 あまりの美しさに溜息が出た。石造りのクラッシックな建物が建ち並び、運河にはアーチ形の橋が架かっている。夢のような水上都市だ。


「王国の主な交通手段はゴンドラだ」

「王国は城壁に囲まれているのですか?」


 遠くに高い城壁が見える。


「あれは天然の断崖絶壁だ。この国はフラット大地の割れ目の底にあり、絶壁は高く地上から降りてくることも出来ないし、ここに来るには一度水中洞窟を潜る必要がある。きみは気を失っていたから地下水脈を通過できた。

 その後、運河を遡上してここまで来た。ここはミズーリよりはるかに標高が高く水門を操作して水位の上げ下げを繰り返すことで船で山登りをしたようなものだ。つまりここは天然の要塞だ」


 なるほど。河童におあつらえ向きの場所なのね。けどミズーリ公国などよりはよほど文化も文明も進んでいるようだ。だが気になっていることを聞いた。


「街並みは美しいけれど閑散としていますわね」


 もしかしたら河童がここの住民の内臓を食べてゴーストタウンにしたのかしら。


「警備の都合上、今日は誰も運河に近づかないように指示しているんだ」


 何がそんなに危ないのかしら? 不審に思ったが話題を変えた。


「キール殿下、あなたは今日初めて会った女と結婚することは平気なのですか?」

「……。平気だ。これも王族のつとめだ」

「それも国家機密と関係あるのですか?」


「そんなところだ。きみはそんなに嫌かい? 河童と結婚するのは」

「さっきはごめんなさい。傷つけるつもりではなくて。ただいきなり他国に連れて来られて結婚しろと言われても。たとえ相手が人間でも無理です」


 冷静に話して納得してもらうしかない。


「ふむ。そうか。ではきみのことを教えてくれ。家族はどんな人たちだい? きみが死んだと思って悲しんでいるだろうね」


 脳裏にマルガリータ夫人とゼルダの顔が浮かんだ。

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