第5話 あそこが気になる
「あ、見た目で判断するんだ」
「ち、違います。見慣れないだけです。やっぱり皿があるんだとか、気になって」
「なるほど。きみは正直な人らしい。この頭頂部は僕たちにとっては戦士の証だ」
「戦士?」
「そう。この国の男性は成人して立派な戦士になると頭頂部の毛が抜けるんだ」
「ゴリラのオスがシルバーバックになるようなものね」
「傷ついた」キールが急に消沈した。
ちょっと待って、それはずるいわ。そこで戦略を変えることにした。
「わたしにはヘンリーという婚約者がいるんです」
「水神の花嫁になったといったではないか」
「でもそうなる前はヘンリーという婚約者がいたのです。生きていると知ったらヘンリーが助けに来るわ!」
「ならば決闘を申し込むまで。見た目の違いなどすぐに慣れる。これから一緒に王宮に向かうぞ」
「ここは王宮ではないの?」この豪華さははどう見ても王宮だ。
「ここは僕の私邸だ。きみを無事洞窟から連れ帰り、王宮に連れて戻るまでが一連の儀式だ」
「嫌よ、行かないわ」
しかしキールが「始め!」と一声かけるとあっという間に十人近いメイドが現れてローズを両脇から掴んだ。
「ちょっと離して!」と暴れたが半ば連行されるように別室に連れていかれ問答無用で服を脱がされた。そして湯気が漂う広い浴場で体の隅々まで洗われ、体を拭かれた。
その間メイドたちにあらゆる質問をしたが誰もが「答える権限がございません」の一点張りで何も教えてもらえなかった。
ガウンを着せられるとさらに別室に移動し、髪を整えドレスに着替えさせられた。それはミズーリ公国のどの仕立屋で作った物よりも上等なドレスだった。
「できました」メイドがいった。「お美しいですわ」
「これが・・・わたし?」鏡に映った自分に驚いた。
キール殿下はよほどの金持ちに違いない。資源が豊かな国というのは本当だろう。
宮殿の外に出ると目の前の運河でゴンドラが待っていた。一艘目にはキールと船頭が、二艘目には衛兵姿の五人の河童が乗っていて、ローズはキールの待っているゴンドラに乗せられた。
このまま河童と結婚させられるのね。さっき溺れ死んだ方がマシだった。やっぱり私の人生は罰ゲームだわ。
いよいよゴンドラが王宮に向かって出発した。
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