第4話 いいにくいけど言わせてもらいます

「なぜそんなことをする必要がありますの?」

「それは国家機密だ。いずれ話そう」

「どうして国家機密をあなたがご存知なのですか?」

「僕はこの国の王子だからだ。僕の父は国王だ」

「あなたが王子?」

「いかにも」


 肌が緑で頭頂部には禿げ。目は真っ黒のガラス玉。王子像から最も遠い。王子というのはもっとこう、そう、あの日見た彼のような人のことをいうのだ。


 するとキールが立ち上がって近づいてきた。


「いまから国王夫妻に会ってもらう」と手を取ろうと伸ばしたキールの手を思わずローズは叩いた。吸盤があって気持ち悪く感じたのだ。


「無礼者!」

「無礼で結構ですわ。私はあなたと結婚するなどといった覚えはありません! 国に帰ります」


「それは不可能だ。我が国の存在を知った者は生きてここは出られない。今頃ミズーリ公国ではきみの葬式が盛大に行われている。きみに帰る場所はない」


「なんですって」とはいったもの、確かに帰ったところで誰も待ってはいないのだ。だからといって河童と結婚することはできない。


「怖れ多いですが殿下」努めて冷静に返した。「国家間に事情があるのはそれとなく分かりましたがそれでもわたくしはあなた様とは結婚できません」

「なぜだ?」


 ここでローズは一呼吸置き先程からいいたくてもいえなかったことを言い放った。

「だってあなた、河童じゃない!」


 それを聞いたキールは今初めて自分が河童だと気づいたかのように驚いていった。


「それが問題なのですか!」

「それ以外に問題があるのですか?」

「河童の何が悪いのですか?」


「河童は悪くありません。でも肌は緑で目は真っ黒で大きすぎだし、手に水かきだってある。それに背中に甲羅もあるはずよ。知っていますから!」やけくそになり勝ち誇ったようにいった。


 すると負けじとキールもいい返した。


「緑色の肌は水中でのカモフラージュに役立ち、陸上では色は薄くなります。目は水中でよく見えるためのもの。水かきは速く泳ぐために必要不可欠。あなたが知ったかぶりに指摘した甲羅は現在の我々にはない。その名残として肩甲骨の一部に薄く甲羅の模様があるだけだ。洒落たタトゥーと思ってもらって構わないレベルです」


「機能性の問題でもなく、気の持ちようで何とかなるというものでもありません。それに水中で役立つことばかりじゃないですか。私は陸上で生活しているのです」


「心配無用。わたしは陸上でも類まれなる身体能力を発揮します」


「話の通じない方ね。あまりにも違いすぎて異性として見れないと申しているのです。それになんですかその」といって表現に困っていると視線が勝手に頭頂部にいってしまった。

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