第3話 死んだ方がマシ婚

 え? 私がこの河童と結婚する? 


 驚くやら気持ち悪いやら腹立たしいやらで言葉が出てこない。冗談じゃないわ。死んだ方がマシよ。でも怒らせては駄目よ、ローズ。自分に言い聞かせて抑揚気味にいった。


「殿下(虚栄心をくすぐってやろう)、わたくしはミズーリ公国の子爵家の娘ですが、雨乞いのため人柱として水神に差し出されたのです。いわば水神に嫁いだ身。それでこのような花嫁衣装を着て」といいいながら自分の首から下を見たローズは悲鳴を上げた。


 純白のドレスが濡れてドレスの下の一糸まとわぬ自分の体がスケスケだった。人柱は下着は一切身に着けないのが決まりだったのだ。慌てて両手で体を隠したがまじない程度で役には立たない。

 ローズはカウチに座り込んでキールに背を向けた。


「恥ずかしがることはない。きみは僕の花嫁なのだから」

「私に何かしたの?」


「まだだ。しかし恥かしいならこれを」といってキールがガウンを差し出したのでむしり取るように受け取って濡れたドレスの上から羽織り胸元を隠して帯をきつく締めると勢いよく立ち上がって振り返った。


「というわけですからお分かりいただけましたでしょうか、殿下」最後の一言は嫌味だ。

「もちろん。わたしの見解と一致している」

「と申しますと?」

「ミズーリ公国が供物を捧げた水神とはこの僕だ。だから僕があの洞窟へ受け取りに行った」


 あのとき洞窟で見たあの怪物はこの河童だったのか。


「つまりきみはぼくの妻になるんだ」


 吐き気がしそうになった。


「水神が実在するなんて聞いたことがありませんわ」ローズは声を絞り出した。

「人柱になった女性は生きて帰らないからね。しかし彼女たちはこの国で暮らしている」


 彼女たちが生きている? 信じられない話だ。

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