第10話 10th 女将


誰しも1度は受けたことがあるだろう。

最高のおもてなしを。

またこの店に来たいと思えるような

サービス、飲食の場合食事に来たい

というよりサービスを受けたい。

人に会いたい。そんな体験はないだろうか。


旅館【天月】


イーベルの町にある世界最高峰の旅館

そんな天月の最高責任者である女将

みんなからは【おかみ】の愛称で

親しまれていた。


神のおもてなしと称される女将の

サービスを受けに訪れる客も多いという。


女将には不思議な力があった。

【直感】がずば抜けていた。


誰しも何か嫌な予感がする。という

感覚に陥ったことがあるのではないだろうか。

女将の直感は【予知】とまでは行かないが

【予感】がほぼ的中する。

もちろん嫌な予感だけでなく良い予感もある。


女将

【私の直感。初めてはずれたなぁ】



---------------



女将は名家【皇家】(すめらぎけ)の

一人娘として生まれた。

皇家は皇族を裏から支えていた。


そんな名家に生まれた女将は

幼い頃より両親から厳しいしきたりの中

育てられた。

友達をつくることも許されず

外で遊ぶことも許されず、ひたすら

作法や交渉術、語学等を学ばされた。


24時間ボディーガードに監視され

食事、入浴、睡眠以外に自由な時間など

なかった。


一種の洗脳だろう。ある日を境に女将は

感情を失い、機械のようになった。


小学校、中学校、高校では

容姿端麗、頭脳明晰な女将に言い寄る

人も多かったが感情のない女将は

コミュニケーション能力は皆無。

人付き合い等できるはずもなく

次第に人は皆離れていったのだった。


そんな女将の【直感】が働いたのは

大学2回生になった20歳の頃だった。

いつものように講義を終え帰宅する女将。


皇家は2000坪の広大な敷地に屋敷を

構えており、敷地内には300名の

ボディーガードが監視役として配備され

鉄壁の要塞とされていた。


そんな屋敷にはいつも夜は近づいては

いけないと言われていた応接間があった。


大学から帰宅し、いつものように

勉強しシャワーを浴びた女将は自室へ

戻る最中、ふと違和感を感じた。

体が勝手に応接間の方へと動いた。

なんとなく、行かなければいけない

そんな気がした。


応接間の傍でそっと息を潜める女将



???

【順調か?】


【ええ。まぁ、女であること以外は

完璧です。男じゃないのは残念ですが

我が皇家の最高傑作ですよ】


???

【では、最終段階だな。

つぎのステージへ進めろ】


【大丈夫ですよ。感情を欠落させています。

従順な殺戮マシンになりますよ。

交渉術と語学も学ばせていますので

潜入も出来ると思います。】


【私ももう50になる。あと5年か....

皇家の暗殺家業は絶やしてはいけない。】


???

【全てはこの国のために。頼んだぞ。】


.........

.......

....


女将


暗殺家業.....そっかぁ

うちって人殺しの家系なんだ。

私もそうなるのかなぁ


どんな感覚なんだろう


感情....感情ってなんだろう。


でもまた言うこと聞いてたら

怒られないからいっか。


お父様もお母様もいるし

わたしはひとりぼっちじゃないもん



刹那、とてつもない悪寒が走る

感情等とうに無いはずの女将が

初めて感じる恐怖

初めての感覚に身体が震える


【直感】が動いた瞬間だった

【なんとなく】女将は身体を伏せた



スパッ ザシュッ



屋敷を含む約2000坪の敷地が

ほとんど音もなく真っ二つなった。


ケーキを横からスライスしたかのように。


女将は何が起きたのかわからなかった


ゴロゴロゴロゴロ


女将の前へ父と母の首が転がる


女将

【あ、お父様、お母様。死んだのですか。

そんな姿になってしまわれて】


【これでほんとにひとりぼっちですね。】


感情のない女将は両親が死んでも

何も感じなかった。


【あ、でもこれから誰にも怒られる

ことはないのですね。でも困りました

 どうやって生きていきましょう】



コツ........コツ........コツ


ノア

【こんばんは。私と一緒においで。女将】



女将

【どなたですか?】



ノア

【私はノア。君を導く者】


月のせいか、よく顔が見えなかったが

この人についていこうと直感が動いた


ノア

【君は感情を押し殺してるだけだよ。

無くなったわけじゃない。

私が取り戻してあげるから安心して。】


【向こうに着いたら東へ。自分の直感を

信じて進んでみて。】


【詳しくは次に会う時に。またね。女将】


《転生》


女将の意識が遠のいていく。


一滴の涙が流れた


...........

........

....


ノア

【さて、いるんでしょ】


???

【バレちゃいましたか★】


ノア

【ほんとしつこいね。

しつこい男は嫌われるよ?】


???

【アハハ もう嫌われてますよ★

貴方も懲りないですねぇ】


ノア

【・・・】


???

【それよりこっちの世界ばかり見てて

いいんですか?向こう大変ですよ★

みぃちゃんでしたっけ。東の森で

死にかけてますよ】


ノア

【死んだらそれまでだよ。】


???

【怖いですねぇ。ではまた】





ノア

【クソッ...あと2人....】



-----------------


ブォン



女将

【いてて、ここはどこだろう?】



大森林 エルダ


魔法都市バーツで人々の生活を支える水

その水源となる滝がある大森林。

魔物もいるが、比較的低ランクの魔物が

多く低ランク冒険者もよく訪れる


そういえばノア?あの人が東に

行けって言ってたわね。とりあえず

歩いてみましょうか。


【直感】が働く


女将

【次はこっちかしら。大自然の中なのに

平坦で歩きやすい。。。このまま

真っ直ぐでいいのかな。】


女将の直感は驚くべきことに魔物の潜む

ルートを全て避けていた。


そして1匹も魔物と遭遇しないまま

折り返し地点まで進んでいた。


女将

【ん。こっちに行くと人が居そうですね

ちょっと尋ねてみましょうか。】


【あ。誰かが魔物と戦っていますね】



???

【くっ、、、なんなのよこいつら

犬のくせに!!!いたっ】


Fランクの魔物 ウルフ

狼のような見た目をしており集団で行動する。

個々の戦力は低いが集団で襲いかかって

来るため囲まれればジワジワと嬲り殺される


女将

【んー。ほっときましょうか。

知らない人ですし。】


【あぁ、、直感が、、、、】


【あのぉ、そこの人、

27歩後ろへ下がって下さい】


???

【誰!?わ、わかったわ!!】


言われた通り27歩下がる

それを追いかけるウルフ


刹那、ウルフの群れが撤退していく


【どういうこと!?】


そこにはウルフの嫌う臭いを発する

フツノメ草が生い茂っていた。


女将

【助かったみたいでよかったです。では。】


???

【ちょっと待ってよ!!!貴方名前は?

私はみぃ!!!みぃだよ!!!】


女将

【私は....んー。おかみです。

おかみって呼んでください。】


なぜか本名を言わない方がいいと

直感が告げた。


みぃ

【女将ね!ありがとう。助かったわ!】



............

.........

.....


女将

【ふぅ。やっと着きましたね。】


というか私歩くのこんなに早かった

でしょうか。こんなにスグ森を抜けるなんて




森をぬけた先には様々な種族が

暮らす町【イーベル】があった。


大森林エルダの近くということもあり

綺麗な湧き水で育つ果実や野菜が美味。

中でもココラという直感5cmほどの

丸い果実が名産で香りと甘みが強く

イーベルの気候でしか育たない特殊な

果実だ。イーベルの住民はこのココラを

取引し生計を立てていた。


また、古くから守り神として龍を

信仰しており町の至る所に龍が祀られていた


日本と似たような気候をしており

春夏秋冬が存在する。

今は11星月。日本で言う秋頃だ。


女将

【着いたはいいもののどこに行けば

良いのでしょうか。お金もないですし。

困りましたね。】



チリィン



【なにか鈴のような音がしましたね。

あっちでしょうか。】


音のする方へ向かう女将


そこには獣人の少女が座り込んでいた。

6歳くらいだろうか。かなり幼く見えた。


女将

【おや。獣のような耳が生えていますね

お嬢さんこんにちは。】


獣人の少女

【こんにちは。あなただぁれ?】


女将

【私はおかみと申します。あなたは?】


獣人の少女

【わたしスピカ!!迷子なの、、、】


女将

【スピカさんですね。よかったら私が

おうちまでお届けしましょうか。】


スピカ

【え!!いいの!?でも道わかんない....】


女将

【大丈夫ですよ。なんとかします。】


【んー、あ!こっちですね。】


女将は少女の手を引き、直感を頼りに進む


........

.....

...


スピカ

【あ!!ここ!!ここが私のおうち!!】


女将

【まぁ】



旅館【天月】


イーベルの町を支える温泉旅館だ。

大森林エルダを越え魔法都市バーツへ向かう

冒険者が多く宿泊している。

また温泉も引かれており住民の憩いの場として

古くから愛される名旅館だ。


日本の和を連想させるかのような佇まいに

紅葉した木々が彩りを与え幻想的な

雰囲気を醸し出していた。


スピカ

【おかぁ!!!スピカ帰ったよー!!!】


???

【スピカ!どこにいっていたの!?

勝手に出ちゃダメっていったでしょ!

あら、どちらさま?】


女将

【おかみと申します。スピカちゃんが

迷子だったので連れてきました。】


???

【あら、私ったら恩人に失礼なことを。

申し訳ありません。私、天月の責任者を

しておりますフユネと申します。

この度は娘をありがとうございます】


女将

【いえいえ。私も実は迷子で、どこにいけば

いいか分からずにふらふらしていたので】


フユネ

【まぁ。大変だったのね。

良かったら泊まっていかれます?】


女将

【実はお金もなくて困っていまして】


フユネ

【お代は結構ですよ。お礼もありますし

よかったらこの辺りのことお伝えします】


女将

【いいんですか?助かります。】


..........

.....

...


女将

【はぁぁ。良いお湯でした。

食事まで、ありがとうございます。

デザートのココラ?という果実が

特に美味しかったです】


フユネ

【お口に合ったようで良かったです。

では少しお話ししましょうか。】



女将は今までのことをフユネに伝えた。

全てではなく敢えて少し隠して話した。

別の世界から飛ばされてきたこと。

自分には記憶がないと伝えた。

行くあても目的も資金もなにもかも

ないといことを伝えると、フユネから

天月で働いてみないか。誘いがあった


女将

【お気持ちは嬉しいのですが、見ず知らずの

私なんかが良いんでしょうか。

感情があまり出せなくてコミュニケーション

も苦手ですしご迷惑に、、、】


フユネ

【私こう見えて人を見る目があるのよ。

感情が出せないのね。辛かったでしょう。】


フユネはそっと女将を抱きしめた。


女将

【・・・】


フユネ

【まぁ。わたしったら。ごめんなさいね。

でもここは良い街よ。みんな暖かい。

そのうち感情も出せるようになるわよ。

ゆっくり少しづつ頑張りましょう!】


女将

【はい。ありがとうございます】


ん?


【何か困っていることありますか?】



フユネ

【そうねぇ。。実は】



フユネは申し訳なさそうに女将に話した。

天月とココラで生計をなんとか

立てているイーベルだが、近年ココラの

売値が落ちており国の財政が厳しく

なっていること。昔はなかったが少しづつ

貧困街区ができてしまっていること。

宿代をふみたおす冒険者がいること


女将

【なるほど。私お力になれるかもしれません。

まずは財政の方からですね。

ココラ.....私交渉や取引が得意なんです。

少しまかせて頂けますか?】


フユネ

【無理しないでね?】


女将

【大丈夫です。少し任せて下さい。】



ここから先、女将はイーベルの町を

救うことになる。他国との取引

財政難からの脱却。治安の維持に至るまで

大改革を巻き起こす。


それはまだもう少しだけ、先のお話し。






???

【冒険者ってのは難しいな。

お!なにやら日本に近い建物が

行ってみるか!!!】




第10話 完


------------


次回 第11話 11th 勇者?光宙

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