第9話 9th 赤城 孝一郎
天才料理人 赤城孝一郎
味覚、嗅覚、聴覚、触覚が異常なまでに
発達しており食材の声を聞くことができた。
食材を嗅ぎ、触れ、声を聞き、味わう。
この一連の流れを1度行うだけで
その食材に最も適した下処理から調理工程が
脳に浮かんだ。
赤城は幼い頃から才能の片鱗を見せた。
元々貧しい家庭で育った赤城は
食事に対する【飢え】を持っていた。
両親の少ない稼ぎでは到底贅沢はできず
食卓へ並ぶのはいつも同じ食材だった。
もっと、色んなものを食べてみたい。
そう思ったのは10歳になる頃だった。
学校が終わりいつも通る商店街を通り
歩いていると、ふと揚げ物の匂いがした。
刹那爆発的に湧き怒る食欲を抑えきれず
赤城は店頭に並んだコロッケを両手一杯
抱えて走り去ってしまった。
初めて食べるコロッケの味に衝撃を受けた。
人の物を盗んだことなど等に忘れていた。
夢中でコロッケを貪り尽くした。
その後も幾度となく万引きを繰り返した。
商店街の人たちは赤城の家庭が貧しい
ことを知っていたため黙って見過ごしていた。
赤城
【おいしい。もっと他のも食べたい
あぁ。食べたい食べたい食べたい】
赤城はどんどん太っていった。
16歳になる頃ついに体重は100kgを超えた。
ちなみに両親はガリガリだった。
そんな赤城を両親が高校の入学祝いとして
高級料亭へ連れていってくれた。
両親が必死に働いて貯めたお金で。
赤城は自分の家が貧しいことを理解
していたが素直に入学祝いを受け入れた。
高校生には明らかにまだ早いランクの
料亭だが、両親は1度でいいから
贅沢をさせてあげたいとのおもいで
その店へ連れていくと決意したのだ。
【料亭 天宮】
完全予約制、著名人も数多く訪れる
日本最高峰の和食の名店
天才料理人 天宮 乃蒼の生み出す
創作和食は訪れる多くの人を唸らせた。
乃蒼
【いらっしゃいませ。本日はご予約頂き
ありがとうございます。個室をご用意
しておりますのでご案内致します。】
母
【あ、あの、すみません、私たちみたいな
庶民が来てしまって、、、】
乃蒼
【?】
【どのお客様も平等にお客様です。
私は赤城様にお会い出来る日を心待ちに
しておりましたよ。
本日はゆっくりしていって下さい。】
店内は和の雰囲気で溢れていた。
木造の建物は天井には表し梁、壁は
黄土色の塗り壁が施されている。
個室へ向かう廊下からは作り込まれた中庭を
眺めることができ、期待に胸が踊る。
料理はおまかせコースのみ。
値段にして1人5万円。
そして、コースが始まる。
さき付けから始まり碗盛、お造り、焼き物、
煮物、強肴、ご飯と留め碗、香の物から
水菓子、甘味と順番に運ばれてくる。
赤城孝一郎は悶絶した。
今まで食事は質より量だった赤城が
初めて【質】に触れた瞬間だった。
天宮乃蒼の創る料理は美味しいという言葉
では片付けらないほど複雑で繊細だった。
そして、天宮乃蒼が挨拶へと部屋を訪れる。
乃蒼
【本日はご来店ありがとうございました。
お食事はお口に合いましたか?】
両親を押し退け興奮気味の孝一郎が話す
孝一郎
【どれも素晴らしかったです!!!
まず最初のさき付けですが.....】
驚くことに赤城孝一郎は乃蒼の創る
コースの食材から調味料、調理工程から
調理時間に至るまで全て言い当てた
乃蒼
【やはり......】
孝一郎
【えっ?】
乃蒼
【いえ、なんでもありません。
お父様、お母様、この子は私を超える
神の料理人への素質があります。
高校卒業後よかったらうちに来ませんか?】
突然の誘いに戸惑う両親
孝一郎
【いいんですか!!僕もっと色んな
料理を知りたいです!!!】
まぁ、孝一郎がいいならと両親は快諾
乃蒼
【これも運命なのですね......
本日は私もおもしろいものを見せて
頂きましたのでお代は結構です。
また是非お越し下さいね。】
赤城一家を見送った後、夜空を見上げ
乃蒼は呟いた
【これで9人目】
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高校卒業後、約束通り料亭天宮で
修行を開始した赤城孝一郎。
類稀なる才能で知識から技を乃蒼から
吸収し、成人した頃独立することとなった。
赤城
【師匠、短い間ですがお世話になりました。
師匠のおかげでやっと独立できるところ
まで来ました。】
乃蒼
【孝一郎は食材の声が聞けるからね
どこへいっても通用するとおもうよ。
自信をもって頑張りなさい。】
赤城
【はい!!ありがとうございました!
また遊びに来ます!!】
その後、赤城孝一郎は自分の店を開いた。
【中華飯店 赤城】
なぜ、和食の名店で修行した赤城が
町中華の店を開いたのか。
赤城の腕は一流だったが、少ないお客様に
最高のおもてなしをするよりも
多くのお客様に安くて美味しい料理を
沢山食べて欲しかったからだ。
飢えを知っている赤城だからこその考えだ。
中華飯店赤城は天宮で修行した料理人が
創る町中華とだけあってオープンから
連日満席の大繁盛だった。
オープンから5年、食えログでの口コミ数は
4万を超え、星4.2と大人気だった。
そしてそのタイミングで料亭 天宮が謎の閉店
世間では理由は公表されなかった。
その知らせを聞いた赤城は悲しい気持ち
だったが、赤城は忙しく店舗を拡大すべくフランチャイズの計画や中華だけでなく和食の店の
プロデュースも進めていた。
ガラガラガラ
天龍
【今日も相変わらず繁盛してんな】
赤城
【おかげさまで(笑) なにします?】
天龍
【せやなぁ、ほなレバニラにしよか!】
赤城
【はいよぉ!!!天津飯通りましたァ!】
天龍
【ちゃうて。まぁええか。】
プルルルルルル
天龍
【はいはい。あ?なんやワレェ
また返済日守らへんのかい。ええ加減に
せんといてこますぞ】
赤城
【天龍さん、店で大声出しちゃ困りますよ】
天龍
【チッ、またかけ直すわ。すぐ出ぇよぉ!!】
赤城
【お待たせしました!中華そばです】
天龍
【おう!さんきゅう!!
頂きます】
ズルズルズル
天龍
【うまい。赤城さんの作る中華そば
最高やで。ごちそうさん】
バン!勢いよく1000円を置いて
店を後にする天龍
赤城
【1300円なんですけどねぇ.....】
【あの人いつもお会計適当なんだよなぁ
この前800円なのに釣りはいらん!って
600円置いてったし、1000円なのに
1万円置いていく日もあるし....】
【まぁ常連さんやしいいんだけど....】
............
........
....
その日、東京湾で2人の水死体が発見された。
孝一郎の両親だった
遺体には銃痕が9発、ナイフによる刺傷が
6箇所、首を絞められた痕まであった。
孝一郎は店を休業し、両親の葬式まで済ませた
孝一郎
【父ちゃん、母ちゃん、、、
なんでなんだよ。なんでっ、、、、うぅ】
両親の死は簡単に乗り越えられる訳もなく
孝一郎は自宅に引きこもっていた。
ショックで孝一郎は痩せ細っていた
辛くても、悲しくてもお腹はすく。
重い腰を上げコンビニへと向かう。
途中、誰かとすれ違った。
懐かしい香りがした。
???
【久しぶりだね。振り返らずに聞いて
天龍を調べなさい。その後、東京駅の
西口のロッカー9番。鍵は貴方の店のポスト】
孝一郎
【この声、もしかして!?】
振り返るとそこには誰も居なかった。
その後赤城は言われた通りに天龍を調べた。
両親は自分が幼い頃から天龍から
借金をしていた。だが莫大な利子を
つけられ返済が滞っていた。そして
返済ができなくなってしまい殺されたと
いうことまでわかった。
赤城は込み上げる怒りを抑え切れぬまま
東京駅へと向かった。
孝一郎
【天龍さんが。許さない。絶対に許さない】
ガチャ
ロッカーを開けるとそこには
一丁の拳銃と手紙が置かれていた
手紙には【神へと成れ】とだけ
記されていた。わけがわからなかったが
爆発しそうな怒りを抑えきれず天龍の
事務所へと向かった。
孝一郎
【いた。
何か喋ってるのか?】
天龍
【そういえば、Aka*i?
町中華の赤城さんやったり?
そんなわけないか。あん人はええ人や】
赤城
【赤城って言ったか?やっぱりこいつが...
もう終わりにしよう。】
パンッ パンッ ガチャ パンッ
赤城
【天龍さん、よく気づきましたね
でももう遅いんですわ。】
天龍
【ガハッ、、あ、あんたは、、、】
赤城
【3発もらってその出血量。さすがに
生きられませんわ。これでお別れですわ】
パンッ パンッ
天龍
【・・・】
孝一郎
【なっ、、なんで僕がもう1人いるんだ...】
【しかも撃っ.....おぇええええ】
赤城
【おや。見つかってしまったか】
孝一郎
【誰だおまえは!!!】
赤城
【俺は赤城や】
パンッ パンッ
孝一郎は脳天をぶち抜かれ即死だった
赤城の変装がとける
乃蒼
【あっちでも頼むよ。孝一郎】
.........
.....
...
孝一郎
【ん、、、ここは、、、】
孝一郎は気がつくと真っ白な空間にいた
《転生を開始します》
転生?なんのことだろう。
父ちゃんと母ちゃんに会えるかなぁ
僕もっと色んな人を料理で笑顔にしたかった
まだ25年しか生きてないんだよ
ちくしょぉ.....
《スキル 孤高の料理人を獲得しました》
《スキル 神の料理人へと進化します》
《スキル ◾︎◾︎◾︎◾︎の神 ◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎を獲得しました》
《転生を開始します》
薄れゆく意識の中、孝一郎は夢をみた。
12人の仲間と楽しく食事をしていた
みんなが自分の作った料理を美味しいと
笑顔になっていた。
来世はもっと多くの人を笑顔に......
9話 完
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次回10話 10th 女将
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