父の日
奈瑠太
第1話
「沈黙は金」をいちばん生きている父の抱えたブラックホール
愚痴すらも言わず佇む背中にはパンダのような平熱がある
おさなごは歌詞の意味さえ分からずに歌うから微笑みが明るい
夏休みの朝顔くらいナチュラルに「人畜無害」と言わされていた
母の口は父を貶むほど黒く蛍光灯は点滅をする
父と行くふたり散歩はパチンコで煙草も音も悪くなかった
銀玉をもらって打てば仲間めく父との午後はやさしいひかり
週末にはバドミントンを この羽根の放物線は虹かもしれない
ねえ父さん、と聞くと答えは母からでわたしは父と話したかった
ただ在るをじっと過ごしてきた父と顔もこころもそっくりだった
数学の出来ないわたし、数学の教員免許を持っている父
教えても気がない娘でごめんなさい目の荒いザルめいた脳みそ
空気だけは読めてしまって人畜無害の意味をだんだん肌で感じた
ねえ父さん、将来何になりたかったの
医学部へ行って医者になること
父さんのなかに見つけた宝石で二分の一のわたしが光る
言の葉はみずから光るものだから誰かのメッキはひび割れてゆく
結婚をさせて欲しいと言われた日、ダムが決壊したようだった
青天の霹靂だった「どこの馬の骨とも知れぬ」におののいた春
ふつつかな娘をお願いしますって言うには酔うしかなかった父です
ありがとう 沈黙はあたたかいことをずっと忘れず生きてゆけます
父の日 奈瑠太 @nalda
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