雨音の彼方へ

@tamamokafe-zery

第1話

六月の梅雨空が広がる東京の街、その一角にある小さな喫茶店「雨音」。薄暗い店内には、雨の音が心地よく響き渡り、訪れる客の心を静かに包み込んでいた。


常連客の一人である赤石大晴は、窓際の席に腰を下ろし、いつものようにコーヒーを注文した。窓の外には、傘をさした人々が行き交い、都会の喧騒と雨音が混ざり合っていた。その中に、一人の女性の姿がふと目に留まった。


彼女は赤い傘をさし、どこか悲しげな表情で歩いていた。翔太はその表情に引き込まれ、知らず知らずのうちに彼女の姿を追っていた。何か特別なものを感じたのか、それとも単なる興味だったのか、彼には分からなかった。


その瞬間、店のドアが開き、雨音が一気に聞こえてきた。大晴は入口の方を見る。そこには、まさに彼が注目していた赤い傘の女性が立っていた。彼女は少し戸惑った様子で店内を見渡し、やがて空いている席に向かって歩き始めた。


「いらっしゃいませ」と店員の声が響く中、大晴は再びコーヒーカップに手を伸ばそうとする。しかし、その手はコーヒーカップを掴むことはなかった。カタカタと音をさせながら彼女は持っていたバッグを椅子にかけ席につく。大晴はしばらくその姿を眺めていた。

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