1-3 転校生は嫌いだ
◆◆◆◆
ルノワが4度寝を始めた後、マリカはよしっ、と手を握る。
「よし!やっと全員の名前を聞けた〜!」
「マリカ、おめでとう!」
「ルノワのやつ強敵だったな。」
全員の名前を聞くことができたマリカに、クラスメイトはおめでとうと称賛をおくる。
「みんなに聞きたいことがあって、雨影 ルノワってどんな人なの?」
マリカは、ルノワについて気になったことをクラスメイトに聞こうとした。
すると、話を聞いていた人たちは、微妙な表情をしだした。そのあと話した内容も、よくわからないものだった。
「う〜ん。なんというか…変人?」
「あまりよく知らないんだよね。話したことないから。」
「妖怪みたいな感じだよ。気がつくと消えてたりするから。」
「へえ〜?そうなんだ。前から一緒のクラスの人ならよく知ってると思ったんだけど。」
マリカはすごく驚いた。初めて会った自分はともかく、クラスメイトさえもルノワのことを知らないのだ。彼について、クラスメイトから分かったことは、とんでもない変人ということだけだった。
「そうだ、ルノワのフードの中身ってどうなってるか知らない?さっき取ろうとしたらすごく睨まれたから。」
「あ〜それ?もう絶対やらない方がいいよ…。俺たちもさ、何回かフードを取ろうとしたいことがあるんだよ。」
「全然取れなかったよね。取ろうと近付くだけで起きるんだもん。」
「一回、思い切り大人数で襲いかかって取ろうとしたことがあったんだけどさ、あいつどうしたと思う?
なんと!席から立ち上がって全員投げ飛ばしたんだよ。
その後、何事もなかったように席について、また寝始めたんだよ。
すっげぇ怖かった。めっちゃ睨んでくるからさ。」
(そうなんだ…。やめた方がいいか。実際、取られたら、睨むどころじゃなさそうだな。
中身は気になるけど、キレられたら困るし。
みんなにはやめとけって言われたけど、無理やり取るんじゃなくて、仲良くなってから見せて貰えばいいか。)
マリカは、午前最後の授業を聞きながら、隣の席のルノワの顔を見る。
寝癖ではねている金髪が、フードから少しだけ見えている。
彼が、授業で当てられたみたいで、前の席の人が起こそうとしている。起きなさすぎて、他の席の人も起こそうとする。
起きる気配は全くないのに、手だけを動かしてノートを開いて何かを書いた。そしてそれを先生に見せる。
「すげ〜。起きてないのに、答えを発表してる。」
「見てないのに、なんの問題かわかってるぞ。」
(不思議な人だな。どうやってやっているのかがすごく気になる。
弁当を食べるときにはきっと起きるだろうし、そのときに聞いてみようかな。)
ルノワを観察していたマリカは、そう決めた。
◆◆◆◆
この感じは、4時間目の授業が終わった感じだ!起きないとな。
俺は起き上がって、枕にしていたカバンの中身を取り出す。カバンの中には、ノートと筆箱、水筒と弁当が入っている。
中に入っているうちの、水筒と弁当を取り出す。
カバンはロッカーの中に投げる。
この間、わずか5秒。新記録達成。
教室の中で弁当を食べるつもりはないから、外に出ようと弁当と水筒を持って準備を始める。
「で、何か用?」
隣の席には、俺に何かを話したそうにしているマリカがいた。
この感じだと、確実に面倒なことだと思う。
俺は、眉間に皺を寄せてマリカの目を見る。
マリカは、声をかけた後すぐに要件を言ってきた。
「ルノワくん。一緒に弁当食べませんか?」
「嫌だ。」
俺はすぐに断った。理由はいくつもある。めんどくさいし、めんどくさい。自分の羽を伸ばすことができる貴重な時間を使いたくないし、1人でいたいし、めんどくさい。
とにかく嫌いな奴と一緒に弁当を食べたいなんて考えるわけがないだろう。
「どうして断るんですか。」
彼女がズカズカとこちらに近づいてくる。隣の席なので、1歩くらいだが。
人が嫌だと言っているのになぜあきらめない。こういうところも嫌いなところの一つだ。
なぜわざわざ理由を説明しないといけない。嫌なものは嫌なんだ。
これ以上話しても俺は絶対に断る。だからこの会話は時間の無駄だ。
俺はあからさまに嫌そうな顔をして、彼女を突き放すためだけに、話をした。
「嫌だから。あと、しつこくてめんどくさい。あとお前のことは好きじゃない。好きじゃない人と弁当を食べるわけないだろう。」
「っ!」
彼女はとても驚いた顔をした後、悲しそうな顔をした。
これでいい。
こうやってたくさんの人の前で拒絶すれば、俺に絶対に近づこうとしなくなる。だから、もう俺と関わろうとしないでくれ。
「私は!ーー」
彼女は何かを言い返そうとしていたが、俺はその前に空いている窓から弁当と水筒を持ってベランダに出る。
落ちないように設置されている柵に飛び乗って下を見る。そして、飛び降りた。
やっぱり、高いところは楽しい。開放感があるから。
「待って!」
彼女が何を言おうと関係ない。俺の時間は俺のものだ。何をしようと関係ない。
◆◆◆◆
「待って!ここ3階…」
マリカは、飛び降りたルノワを追いかけて、ベランダに出る。
柵から上半身を乗り出して、下を見ても、ルノワはどこにもいなかった。
「これは?みんなはどうして驚いていないの?クラスメイトが飛び降りたんだよ!」
マリカは、何事もなかったように弁当を食べていたり、会話をしているクラスメイトに質問する。
「う〜ん?まあ…ルノワだしね…。」
今のことを見ていたクラスメイトが顔を見合わせる。
「あぁ、ルノワが昼休みにどっかいくのはいつものことだよ。今回は多分晴光さんが話しかけてきたから強引に窓から出ていったんじゃないか?」
いつも通りのことと聞いて、マリカはさらに驚く。
(やっぱり嫌だったのかな?)
クラスメイトが慣れきってしまうほど、ルノワはどこかにいってしまっているからだ。
「それより、あいつの運動神経バケモンだよな。」
「わかる!しかもいつの間にか戻ってきてるからな。妖怪って呼ばれ始めてる理由でもあるしな。」
「注意してもやめてもらえないもの。そもそも話すら聞いてくれなかったわ。」
クラスメイトはいつも通りに話すだけだ。
マリカは本当に驚いていた。ルノワの運動神経にも、クラスメイトの適応力にも。
このクラスには珍しい出来事が多い。
今日は6月14日だ。まだこのクラスになってそんなに時間は経っていないにも関わらず、3階から飛び降りる生徒がいることに慣れきっているクラスメイト、当たり前のように3階から飛び降りる生徒、こんな時期に転校してくる生徒などがいた。
◆◆◆◆
俺は、下に飛び降りた後、太陽に当たってできた俺の影に潜る。
この影は、俺が魔になって手に入れた能力の一つだ。この中には許可した人間以外は誰も入ることができない。
だからこそ、フードをとって、本来の姿を隠すことなく出すことができる。
早速フードをとって、翼と尻尾を出す。
尻尾で器用に弁当の包みを開けながら、こっそり持ってきた禁止されているはずのスマホを取り出していじる。
「ん〜。やっぱり隠してないほうが楽だな。」
この空間では、人間の自分を演じる必要はない。この中での俺は、本当の俺だ。
「バレたくない。ずっとここにいたい。」
ルノワは、そう本音を漏らす。
できることなら、外の世界でも自分のありのままの姿でいたい。それができないからこそ、昼間は隠れて本来の姿になっている。
俺は、さっき誰にも伝えようとしなかった事情を心の中で呟く。
今まで、自分が魔のような姿になってしまい、実際魔になっていると誰にもバレないように隠して生きてきた。ずっと1人で過ごすようにしていたのも、そのためだ。
ーぐうぅぅぅぅうううう
また腹の音がなった。弁当じゃ腹を満たすことができないな。
最近は腹が減るスピードも早くなってる。
やっぱりずっと人の心を食べようとしなかったのがよくなかったのか。でも、意図的に人の心をたべようと人を襲ったら、それこそもうおしまいだ。無意識で襲っていたからこそ、まだ人を殺すことを嫌がっているが、殺してしまったらそれも嫌がらなくなりそうで怖い。
…最近は、毎日夜遊びをやってるしな。今日はしっかりめにやらないといけないな。
弁当は美味しいんだが、腹は満たされない。だからついついかき込んでしまう。
俺にとって、最近の弁当とは、腹を満たすためのものではなく、味を楽しむものになっていた。
腹を満たせないと、やっぱり自分は人間じゃなくなっているとよくわかる。主食が変わってしまっていることも。
「俺は絶対に、誰かと仲良くならない。もし襲ってしまうと困る。
もし襲ったとしたら、俺が死ぬ。光聖に見つかって殺される。
はあ、考えることが多すぎる。寝よう。」
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