いつもやってること




 「ー!やばい、寝過ぎた気がする。」


 俺は飛び起きた。


 弁当を片付けて、影から飛び出す。もちろん、フードはかぶってからだ。5年間の習慣で、それだけは忘れることがない。

 外にある時計を見ると、やっぱり授業が始まってしまっていた。急いで教室に戻らないといけない。


 俺は学校の壁の凹んでいるところを掴んで、そして登っていく。

 3階の自分の教室があるところのベランダまで戻ってきた。

 1番後ろの窓から、そっと、静かに、自分の席に戻ってくる。


 こういう時、1番後ろだと、気づかれにくいからものすごく助かる。まあ、気づかれないように、気配も消してるからなかなか気づけないと思うが警戒はしておいたほうがいいだろう。


 席に着くことができたことで、俺はほっと息をつく。


 さて、急いで、聞いていないところをメモしておかないと。


 俺はノートを鞄から取り出し、黒板に書かれているところまでのノートをとる。


「こうやって戻ってくるんだね。」


 マリカにそっと話しかけられた。

 彼女はまだ俺に関わるつもりのようだ。こういう物好きもいるんだな。


 それよりも、彼女は俺がこっそり戻ってきていたところに気付いていた。驚きだ。


 正直、訓練していない限りバレないように隠れたつもりだったが、俺の気配を消すのがダメダメだったのか、それとも彼女がすごかったのか…。


 よし。さっきやってたところまで追いついた。ここからは寝ながらでもできる。

 寝よう。俺は眠いんだ。いくら午前中にずっと寝続けていても、ながら睡眠じゃそれだけで完全に疲労は取れない。学校にいる間は、全力で寝続けるぞ。



 ◆◆◆◆



 やっと、長い長い学校が終わった。

 学校にいる間ずっと寝ているとはいえ、やっぱり疲れる。

 早く家に帰って、素の状態に戻ってのんびりしよう。夜になったら、いつも通り遊びたい。



 俺は、階段を飛び降り、靴を取るのと同時に、上履きを下駄箱に突っ込む。靴を履きながら外に飛び出して、走り出した。

 まだ、校門は開ききっていない。


 いちいち隙間を通るのも面倒だ。校門の上に飛び乗ってしまおう。


 地面を蹴って、校門の上に飛び乗る。その勢いをそのままに、校門を蹴って、家までの道を走り出した。



 ◆◆◆◆



 「家、到着!」


 全力で走れば、家までなんて10分くらいだ。いい準備運動になるからものすごく助かっている。

 鞄から、家の鍵を取り出して、それを使って中にはいる。


 階段を上がって自分の部屋に移動する。


 母は家にいない。理由は仕事だからだ。

 父も当然いない。同じく仕事だからだ。


 家の中、家の周りに人がいないことを確認すると、ずっと被り続けていた上着を脱ぎ捨てる。

 脱ぎ捨てると同時に隠れていた部位が現れる。


「やっぱり、暑いな。」


 今は六月。湿気がすごく多い時期だからものすごくジメジメしていて暑い。

 こんな暑い時に、長袖を着る俺も悪いと思うけど、ノースリーブの上着が欲しいとどうしても思ってしまう。


 エアコンをつけると、電気代の無駄遣いだ。勿体無いからつけないで!とか言われるし。7月までつけるなとか酷いと思う。


「まあ、影の中は暑いとか寒いとか関係ないけど。」


 そう呟きながら、部屋の明かりをつけたことで濃くなった俺の影の中に飛び込む。

 影の中は、真っ黒で光を通さない。光を通さなくても、周りはよく見える。影の中に入る時は、水の中に潜るような感覚があるが、中は霧の中にいるような感じだ。


 学校で誰にも見つかることがなく、いつの間にか消えていたのも、この影が理由だ。


 ベランダから飛び降りても、足元に自分の影さえあれば出入り可能だからだ。


 「影よ、動け。」


 中に入った俺は、いつも通りに影を動かし始めた。


 動き出した影は、ぐにゃぐにゃと粘土のように形を変えた。機会もびっくりするほど正確に形作られている球体になったかと思えば、糸のように細くなったりもした。


「よし、いつも通り動くな。」


 何も問題なく動くことを確認した後、大きなヨーヨーのような形にして、両手でブォンブォンと振り回す。


 この形は本当に使いやすい。弾力性もあって、投げてもすぐに戻ってくる。


 この形を思いついた時、使いこなすために迷わずヨーヨーを買いに行ったな。意外と難しくて、普通のヨーヨーを振り回せるようになるまでかなり時間がかかったけ。なかなかうまくできないから、俺も悔しくてずっとやり続けたんだ。そのおかげか、ナイフよりも、拳よりも強力なものになっている。


 この影は、自分が魔になった時に自然と使えるようになったものだ。人が生まれた時から呼吸をするみたいに、最初から頭の中にあったような感じがした。勉強したこともないはずなのに、なぜか知っている感覚はとても不思議だった。

 最初は使いこなすのに苦労した。知っていたと言っても発動の仕方を知っていたというくらいで、どんなことができるかはほとんど頭の中になかったからだ。ここまで使えるようになるまで、本当に苦労した。


 この影のことを調べるついでに、普通の人には存在しない自分の部位も調べることにした。


 影は、基本的に俺の影を使う。自分の影を操作できるというのが大まかな能力だ。他にも、物を収納しておいたり、自分以外の影に自分の影を混ぜ、その影を使うこともできる。かなり便利なものだ。


 翼は、まあ一言で言うと飛べる。本当に飛べるんだ、見た目通り。初めての飛行はほんっとうに楽しかった。動かそうとした瞬間、空中に吹っ飛んだ。最初はすぐに落ちてしまったが、繰り返し飛んでいくうちに、空中を泳ぐように進めるようになった。

 俺は高所恐怖症でもないため、高いところは怖くないし、空中を飛ぶことで生まれる浮遊感や頬に当たる冷たい風はとても気持ち良いものだった。飛ぶことの楽しさを知ってしまったせいで、地面だけでの生活がとてもつまらなく感じられたくらいだ。



 角に関しては、硬くて丈夫という感じだ。あと、角を隠すと他の人にはない部位が見えなくなる。これに関しては謎が多すぎる。


 尻尾は便利だ。思った通りに動かせる第3の腕というような感じで、1人でいる時に限るが、両手が塞がっているときに本当に助かっている。


 まあ、大体こんな感じだ。人にない部位の変化はこんな感じだが、他にも変わったことはある。


 まずは、感覚がものすごく鋭くなった。食事がものすごく美味しく感じるのも、この影響だ。美味しくなる代わりに、苦手な食べ物はものすごく不味く感じられるようになった。

 耳も良くなった。フードをかぶっていて、音が聞こえづらくても、教室の外のことまではっきりと聞き取れる。本気を出せば、階段から伝わってくる1階の音まで聞こえるくらいだ。


 次に、運動神経が良くなった。元々かなりいい方だったが、さらにそれが強化された感じだ。魔になったばかりの時ですら、大人並みに動けたし、今となれば、アスリート並みに動けるだろう。

 流石に、学校でそんなことをすれば目立つことこの上ないため、なるべくスピードを落として、あいつ運動神経いいな。くらいに留めている。


 本当に便利な体になった。見た目が変化したことを除けばこのままでもいいくらいだ。



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