1-5 夜遊び
◆◆◆◆
昼間は影の中でずっと鍛え続けていた。
そして、ついに待ち望んでいた時間がやってくる!ついに夜がやってきた!
俺は、部屋の窓を開けて、フードを被らず外に出る。外は真っ暗で街がものすごく明るいということはない。
昔は夜でも昼のように明るかったらしいが、都市が減り、いくつかの都市が滅びた今は、かなり暗い街となっている。旧都市に感じては、真っ暗だ。光が一つもない。時折見える光は、現れる魔を倒そうとする光聖の隊員のものだろう。
俺は、夜がものすごく好きだ。黒と紺色で、薄暗くて、落ち着く。月が地面に落とす銀色の光もものすごく綺麗で、ずっとみていようと思えばずっとみていられるだろう。その光の周りでキラキラと輝く星たちも、眩しくないのに、はっきりと存在を示していている。光り方が、星ごとに全然違って、それを見るのも楽しいと思う。
まだ、夜は肌寒いくらいの気温だが、その冷たい風も心地よい。上着を着ていれば、そこまで寒くはないのだ。
「よし!旧都市に不法侵入してからの、魔狩りを始めよう!」
俺はふわりと体を浮かせ、あかり一つ見えない旧都市へ向かっていった。
◆◆◆◆
俺は今、自分が住んでいる都市の上空を飛んでいる。
これからやるのは夜遊びというものだ。本当はやってはいけないことは夜にやるものという俺の偏見からこの名前になった。父も、母も家にいないから、バレなければ問題もない。
「せいっ!」ーぎゅぁぁわぁぁあ
「よいしょ!」ーぎゃああぁぁああぁぁ
「どっこいっ!」ーっぺぎょっ
夜遊びのルールはとても簡単だ。腹を満たすために、旧都市で、ただひたすら魔を倒し続ける。それだけだ。追加ルールとして、光聖になるべく見つからないというものもある。
いつも通り影をヨーヨーの形にして、振り回すことで魔を葬っていた。刃物とかじゃなくても、これだけの大きさのものが勢いよくぶつかれば、かなりの威力になる。
倒れて身動きが取れなくなったところを狙って、魔の胸に手を突っ込む。そしてその体から中身を取り出す。半透明の柔らかいものだ。そして、それを何の躊躇もせずに、口の中に放り込む。
「微妙だな…。パサパサしすぎてるし、甘味も少ない。これでしか腹を満たせないから食べてるだけで、本当は食べたくないんだ。こんな不味くもおいしくもない中途半端なものなんて。」
俺は、今食べたばかりの魔の心に対して、味の意見を言う。本当に、美味しいか不味いかのどちらかにしてほしい。中途半端が1番つまらない。食べていて1番楽しくない味だ。
「ゴクッ。やっぱり強い魔の方が美味しいな。安い干し芋と、高い干し芋くらいの違いはかなり大きいぞ。」ーずぶしゅぅうう
魔にも強さと言うものがある。力が強い魔の方が、様々な能力を持っているし、味もすごくいい。
魔は、人の心を食らうことで成長し生き続けるが、いつでも人の心が食らえるわけではない。そのため、魔は共食いをする。共食いをしても、わずかだがエネルギーを得ることができる。しかし、得られるエネルギーの量によって味が変わるため、微妙な味のものが多い。
できれば…強い魔が出てきてほしい。強い魔なら場合によってはそれで遊びを終えられる。
「ー!!」ーぐぎゃぁぁあ
そんなことを考えながら魔を狩っていた時、ご馳走の気配を感じ取った。この魔は確実に強い上に美味しい。
「これは絶対美味しい。今倒したやつよりずっと。行かないと。」
ーぐうぅううううううぅうううううう
涎も止まらないな。どうしようか…
俺の腹の虫もギャンギャンないている。やっぱり確実に美味しい魔が現れたとわかる。
慌てて、さっき倒したばかりの魔の心を食らった後、地面を蹴って空中に浮かび、その気配がある方向へ向かった。
◆◆◆◆
「先を越された…最悪だ。光聖がいる。」
ものすごくショックだ。全速力で向かったと思ったが、光聖が思っていたより近くにいたようで、先にその魔と相対していた。
邪魔して、魔の心だけ掻っ攫っていこうか…。だがそうすると、確実に俺の存在が光聖にばれる。
邪魔しないでおこう。もう少しで、あっちの戦闘が始まりそうだしせっかくだし、光聖がどれだけ強いかをみてみよう。光の力も近くで見れば対策もできるだろう。
俺は少しだが悩んだ。だが、邪魔はしないことにした。邪魔をしないほうが、俺にメリットがあると思ったからだ。
邪魔をすると腹を満たせる。だが、それだけだ。デメリットの方が多い。
邪魔をしないことを選ぶと、戦闘の様子を見ることができる。しかも、光聖がどのような戦い方をするのか見ることができる。デメリットは腹を満たすことができないことだ。
俺は、魔と相対している隊員からギリギリ見えないような位置にある建物に座り込んで、様子を見ることにした。
◆◆◆◆
「どうして、こんなに強い魔がいるの?強い魔は事前に狩ってくれたって言っていたのに…。」
「イレギュラーがあったんだ!仕方ないだろう。」
今、私の目の前には明らかに強い魔がいる。
今回は、強い魔を事前に先輩方が狩ってくれたから、私たちの昇格テストができた。それなのに、昇格テストの最中にこんなに強力な魔が現れるなんて。
怖い。今までこんなに大きい魔と出会ったことはなかった。威圧感があって、うまく体が動かせなくなる。足も膝も、ガクガクしている。
「救援要請をした!少ししたら、近くのチームが来てくれる!頑張って持ち堪えるぞ!」
「「「「はいっ!」」」」
私たちは自身の光を広げ、構える。私も、自分の光を剣の形にして構える。
◆◆◆◆
今回現れた魔は、全長5mの球体だ。その球体の体に、たくさんの尖った刃物が突き刺さっている。そして、中心にギョロリとした大きな目がある。
基本的に魔の強さは大きさに比例するところがあるから、ここまで大きいと弱い攻撃なんて防ぐまでもないくらいに強くなっている。
この見た目は、人によってはきついと思う。黒いブヨブヨした体ってだけで、みたくなくなる人は多いと思う。
だが、俺はこんな化け物のような姿の生き物はかなり好きだ。だって、何も考えずにただ本能のままに襲っているだけだろう。生き物のありのままの姿はとても綺麗に見えるから、堂々と見せられる化け物の方が羨ましい。俺はずっとその部分を隠し続けていたから。
だが、完全に本能で人を襲う化け物になりたいか?と聞かれてもNoというだろう。断る理由は簡単だ。ありのままの姿を出すことができなくても、本能のままに人を襲ったりするつもりはないからだ。これは、人だった時に身につけた価値観の影響だろう。
逆に、完全に人間に戻りたいか?と聞かれても、これもNoというだろう。俺は人にはできないような楽しさを知ってしまった。だから、戻ったとしても前みたいに楽しく1日を過ごすことはできないだろう。
だから今では、どっちの特徴も持っているこの体は、中途半端でもすごく気に入っている。どちらのデメリットもあるが、両方のメリットがあるからだ。
戻りたくないと言っても、真実は知りたい。どうして自分はこういうことになってしまったのか。それだけは絶対に探しだす。
さて、魔と光聖の隊員たちが戦闘を始めてから早5分。こっちから見ると、かなりあっという間に時間が流れた気がするけど、向こうからするとこの5分がものすごく長く感じられているのだろう。
魔の方も、本気を出すつもりはなかったようで、最初はおちょくっていたが思ったよりきつかったらしく、本気を出し始めた。
こいつ、ちょっとだけ頭がいいな。
そう思ったが、すぐにその考えは消えた。本当に頭がいいなら最初に本気を出して、一気に全員倒してからすぐに離脱することを選ぶと思ったからだ。
少し頭を使えるからって、調子に乗るのはやめた方がいい。
「遊んでおちょくって、油断しているとお前の方がやられるぞ。」
俺はそっと魔の方に声をかける。まあ聞こえているわけもないが、光聖がいなくなってくれないと俺の食事がなくなるからな。どちらかと言えば、魔の方に勝ってもらいたい。
◆◆◆◆
「ーハアッハアッ。さっきまで倒せそうだったのに、どうして…。」
「簡単なことだ。こいつが本気を出していなかっただけだ。」
全然、倒せそうにない。
光も、先輩の力しか通っていない。私たち新人の光は、防がれもしない。
最初は、まだ私たちの攻撃も通じてたんだ。でも、少しずつ攻撃が通らなくなってきて、今は先輩の攻撃もほとんど通じなくなった。
このままじゃ全滅してしまう。もう私たちの体力の限界が近い。エネルギーももうすぐ切れてしまう。
全員が助かるための方法は…。
私は頭を働かせて、考える。助けが来るまで持ち堪えなければ、死んでしまうから。
私たちは弱いから、先輩の足手纏いになってしまう。
とりあえず魔から距離をとってーー…
「ーガハッ!」
背中を痺れるような痛みが襲った。その後、じんわりと生暖かくなってきた。
目がチカチカして、前がよく見えない。
ああ、私、壁にぶつかってるんだ。飛ばされたんだ。
ようやく前が見えるようになってきて、そのことに気がつく。目の前に先輩がいる。心配してくれているみたい。
先輩は逃げてください。
仲間も私以外は今にも逃げ出しそうですよ。人ってピンチになると自分のことしか考えられなくなるんですよ。周りのことはどうでも良くなってしまうんです。
私のところに魔が近づいてくる。巨体をゴロゴロと転がして、近づいてくる。
このまま近づいてくれば、私は刃物に刺されて潰されて殺されるだろう。そして、そのまま私という存在はいなくなる。
怖いです。死にたくないです。もっと長く生きていたかったです。
私は、もうこの現実を見たくない。最後は何も見えない状態で終わらせたい。
そう思って、そっと目を閉じる。そして、光はなくなって真っ暗な闇だけになる。
そこに、一筋の光が入ってきた。
ーー??
いつまで待っても痛みはやってこない。もしかしてもう死んでしまったのだろうか。
恐る恐る目を開けてみると、目を潰されて萎んでいる魔とその上には銀髪の少女がいた。
「救援に来ました。無事ではないですが生きてますね。」
私は、まだ生きてる。よかったぁ。
緊張の糸が切れたのか、感情が振り切れてしまったのか、私は気がつくと泣いていた。おそらくどちらもだろう。どうしよう、止めようとしても全然止まらない。
「お疲れ様です。よく耐えました。」
彼女は私に笑いかけてくれた。
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