第3話 リルアが地球に来た理由

 ひとまず俺は一人暮らしのアパートに着くと、小さなちゃぶ台の上にその小さな女の子と、なぜか一緒に持ち帰るように言われたメロンを乗せた。


  まさか俺のこのちゃぶ台の上に、まるまる1個のメロンが乗る日が来るとは。メロンと言えば高級品だぞ。しかもそこそこデカい。


 ……メロン味、ではなくメロン。……本物はどんな味だったっけ。


 しばらくぶりに見る本物のメロンに、俺は好奇心が疼いて食べたくて仕方がなくなってきた。

 

 ……ちょっと食べてみようか。


 そう思い立って、俺は果物ナイフを取るためにキッチンへと向かおうとした。


 その時。


 ――ヒューン、パコン


 また何かが俺の後頭部目掛けて飛んできた。


「いってえ! お前、また撃ったな!? なんなんだよ」


 後頭部を抑えながら振り向き、ちゃぶ台の上でピストルを構えたままの女の子に話しかける。


<だって! 置いていくなって言ってるのに行こうとするから!!>


 見れば女の子は不安そうな顔をしている。


「……ああ、ちょっとキッチンに向かうだけだって」


<キッチンとはどこだ。何をしに行くんだ。寂しくさせるなっばかっ>


 ――やはり、口調は悪いけど寂しいのかと思う。むしろ口調が荒いのは虚勢か??


 そう思うとまた気が抜けた。だから少し優しく話しかけた。


「キッチンってのは台所。ちょっと果物ナイフ取って来て、そのメロン食おうと思っただけだよ。お前も食うか?」


 すると女の子は明らかに動揺し始めた。


<な、なんだと!? なんてことを言い出すんだ! そんなことをしたら、わっちは帰れなくなってしまうじゃないかっ!!>


 急に青ざめ始めた女の子に俺は意味が分からない。


「……はぁ? 帰れなく? どーゆーこと? そしてお前はなんなの?」


 だから俺は、一旦ここで情報を整理したくなった。

 とりあえず、この女の子はなんなのだろう。


<ん? わっちか、わっちはリルアーヌ様だっ! そしてこれはわっちの宇宙船>


 すると、女の子は名乗りながらふんぞり返ってドヤ顔をした。


「は?? なに、そのメロン……宇宙船だったの!? それが本当だとしたら、なんてトロピカルな乗り物なんだよ」


 女の子のまさかの答えに面食らってしまう。けれど女の子は。


<ふっふっふ。どーだ、可愛くてすごいだろーわっちの宇宙船!!>


 やっぱり腰に手を当て、ふんぞり返って得意げだ。


 さっきまでの不安そうな顔は、一体どこに行ったんだよ。




 さて。メロンが可愛いかどうかはさておき。……まさかそれが宇宙船だなんて、俺は夢でも見ているのだろうか。


「なあ、それが宇宙船ということは、お前は宇宙から来たのか?」


 気になって質問をした。こんなの誰もが感じる当然の疑問だと思う。なのに。


<むー、……オヌシはやっぱり、頭が悪いのか?>


 さっきまで得意げだった女の子は、途端に怪訝な顔をして言ってきた。


「なんだよ。今の質問のどこが頭悪いんだよ。バカにしてんのか」


 質問をしただけなのに、バカにされて正直腹が立って来た。


<オヌシはバカだ。わっちの名前はリルア―ヌだって言っただろう。“お前” じゃない。 リルアって呼べ!>


けれど思ってもいなかった理由に拍子抜けしてしまう。


「……あーはいはい、リルアね。で、リルアは宇宙人なんですか。何しに地球に来たんですか」


 少し面倒になりつつそう聞いてみれば。


<ふふふ。リルアって呼んだな! オヌシはやればできるやつじゃないか。で、オヌシの名前はなんだ。名を聞いたら名乗るのが礼儀だろう>


 さらに面倒な事を言われた。俺の質問にはいつ答えてくれるんだよ。


「あーもう、めんどくせーな……。俺の名前は 空閑くうが 碧依あおいだよ……」


 答えつつ。こんな変なやつ拾って来るんじゃなかったかなぁと後悔し始めていた。


<おお、クウガか!! かっこいい名前だな!! ところでクウガ、わっちがチキューに来た理由だが……それはチキューにあるという、強力な武器を手に入れるためだ。クウガは持っていないか?>


 けれど話は急に本題に入っていて。武器だなんて、急に物騒な話題になったなと思う。


「武器? んなもん持ってるわけねーだろ。ここは平和ボケした日本だぞ?」


<うん。ここはチキューのニホンという国だろう? 調べによると、ニホン人は各家庭に一つずつ所持していると聞いたぞ? ……ま、まさか、隠しているのか!?>


「いや、隠すどころかそんなものは持ってねえ。国を間違えたんじゃねえか?」


 リルアの言っている武器とはなんなのだろう。おおよそピストルか何かで、護身用に持っている国と間違えたのだろうと思った。けれど。


<そんなことはない!! ここはニホンという国だろう!? リルア、ちゃんと調べたもん。もうすぐカユガセーダがやってくる季節だろう!?>


 さっきまで横柄だったリルアの態度がまた少し子供っぽく感じた。


「カ、カユ?? なんだそれは。怪物か!?」


<うん、怪物。暑い季節になるとやってきて、黒くて、羽が生えてて、人知れず襲ってくる。そしてそいつに刺されるとその部位が赤く腫れ上がって、免疫機能がやられて生命エネルギーを減少させられる。恐ろしい怪物だ>


「な、なんだよ、それ……そんな怪物日本には……」


 そしてそう言いかけた時。


「あー!! あれ!! あれが欲しくて来たんだ!! 対カユガセーダ用の強い武器!!」


 何かを見つけたリルアはぴょんぴょんと飛び跳ねながら、棚の方に向かって指差しをした。


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