第2話 リルアを連れて帰る事になった。

 ……よく分からないし、関わるのも面倒だ。よし、帰ろう。


 その時の俺は、失恋の傷を癒すために河原に来ていた。だから他事に構う心の余裕なんてものはなく、そのまま帰ろうと思った。


「助かってよかったな。じゃ!」


 だから俺は、その小さな女の子に声だけをかけ、方向転換をしてその場を離れようとした。


<え、ちょ、ちょ、ちょ>


 まだ脳内で声はするが、ここはスルーだ。スルースキルの見せ所だ。

 俺は振り返ることなく歩いていく。すると。

  


――ピューン、ポコンッ


 また何かが飛んできて俺の後頭部に当たった。


「いってえ!! なんだよ、また後頭部に何か飛んできたんだけど!!」


 さすがに後頭部をさすりながら振り向くと、その小さな女の子は仁王立ちをして、両手を腰に当てぷんぷんと怒り顔をしていた。


<おい、オヌシ! ちょっと待て!>


「なんだよ、助けてやったんだからもういいだろ?」


<よくない! オヌシには情けも哀れみも血も涙もないのか!>


 相変わらず俺の頭の中では声がする。


「ないよ、そんなもん。なんで意味の分からん人形の相手なんてしないといけないんだよ」


<……なんてやつだ。もっといいやつそうな気がしたのに。わっちの勘が外れるなんて、そんなこと……なかなかないのに。ならば仕方ない。奥の手だ!>

 

 女の子は手に持っていたピストルを俺に向けた。


 すると俺の心臓のあたりに、よく映画で見るような赤い光の点が見えた。


「え、なに。そのピストル。なんなの、お前、そんな怖い顔して……まさか俺を殺す気か!?」


 俺はこんな人気ひとけのない河原で、意味のわからない小さな人形に撃たれて、死ぬというのだろうか。俺の人生そんなもん? 


 なーんてな。そんなバカな。あんな小さなピストルなんかで人を殺せるものか。


 けど……なんなんだよ、あの真剣な顔は。まさか……あのピストル、小さいけど殺傷能力は高いのか!?


 堂々とした小さな女の子の表情に、だんだんと不安になってきた。


 そして、女の子がにやりと笑ったその時。


 俺は、女の子のそのグリーンの瞳に吸い込まれるように、身動きが取れなくなってしまった。


 

 な、なんだよ、動けない。まさか、俺の人生これまでか!?


<ふっふっふー、かくごー!>


「ま、待って、ちょっ、ちょっと!」


<とりゃああああ>


 そして俺は目を瞑って覚悟を決めた時。


 ピュ————ン パコンッ


 俺の心臓に何かが当たる感触がした。


「痛っ……た……くない。あれ? なに? なんなんだよ」


<ふっふーん! 当たったぞ? まいったかー! 命中したからリルアの勝ちだ! 負けたお前はリルアの願いを聞け!>


「え?」


 はっきり言って拍子抜けする。痛くもかゆくもないのだけど。


 なのに。


<……置いて行こうとするなよ、ばか。寂しいだろ。お前の家に連れて行け。さもないと、本当に泣くぞ? え——ん>


 その小さな女の子は、こちらをチラチラと見ながら明らかなウソ泣きを始めた。


「はぁ……? お前、一体なんなんだよ……。さっきの後頭部の痛みもお前のせいか?」


 なんだか一気に気が抜ける。


 彼女が一体何者なのか、意味不明だとは思いつつ。さっきまで俺の胸の中に占めていた失恋の痛みが、なんだかもうどうでもいいような気持ちになってきた。


「はあ……。まあ、いっか。俺の家、連れてってやるよ」


 そうして俺は、その意味の分からない小さな女の子優しく拾い上げると、俺の家に連れて帰ることにしたのだった——。

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