第1話 失恋したら、リルアと出会った。
俺は、今。一人暮らしの部屋の中で、銀髪に緑眼をした人形のように可愛い美少女に抱き締められている。それも、ふたりきりの状態で。
しかも俺は彼女にキスをされ、メロメロに懐かれこの後一緒に住むことになるのだが。
どうしてそうなるのか、事の発端は少し時間を遡ることになる――。
◇
6月のはじめ、俺――
「あーいい天気だなあ。絶好の散歩日和だ! 嫌な事なんか吹っ飛ぶくらいの快晴! この河原まで散歩に来て正解だったな」
俺は一人になりたかった。3年間片思いしていた相手に、告白することもなく振られた気持ちを整理したかったからだ。
「はー。風が気持ちいい……」
目を閉じて、川のせせらぎと風の心地よさを感じてみる。
こういうの、マイナスイオンっていうのかな、俺の心の傷が少し癒えていくようだ。
そうして俺がすっかり悲劇の主人公ばりに浸っていた時。
——ピューン コツンッ
何かが飛んできて、俺の後頭部にぶつかった。
「いってええええ! な、なんだ?」
思わず振り返ってあたりを見渡してみたのだが、そこにはゴロゴロとした河原が広がるばかり。
と、思ったら。頭の中で女の子の声がした。
<やったあ! やっと当たった!! オヌシ、ちょっとそこのオヌシ、頼む、助けてくれ!!>
「なにこれ、頭の中で変な声がする……。テレパシー?? けれどまさか、そんなわけ……」
俺は不思議に思ってもう一度あたりを見渡してみたのだが、やはり何もない。けれど。
<ねえ、オヌシ、キョロキョロしてないで、ここ。ねえ、こーこ!! 早く助けてよ、こんちくしょー!!>
頭の中の女の子の声は、止むことはない。
「な、なんだなんだ!? どこから聞こえてるんだよ、この声……」
不思議に思いながら河原を歩いてみるが、やっぱりゴロゴロとした岩が転がっているだけで誰もいない。
<んー、もお!! 早く見つけてよ!! ……泣いちゃうぞ!?>
けれど頭の中の女の子の声は切羽詰まっているようだ。
「何、どこにいるんだよ、誰なんだよ……」
気になってさらに河原を探して歩き回ってみた。
<あー! 違う!! もお!! そっちじゃない、こっち!>
「はぁー? なんなんだよ、こっちか!?」
歩くたびに石を踏む音は耳から聞こえてくるのに、やはり女の子の声だけは頭の中で聞こえてくる。
<そう、そっち、そのまま、そのまま……え、ちょ、だめ、やだ、行かないで、こっち、そう、そこ!!>
頭の中のその声は、強気になったり弱気になったりしながら、俺を誘導する。
「……そこ?? どこだよ」
<ここ!! オヌシの足元!! 気付いて!!>
「え、足元??」
言われて足元に視線を落としてみれば、そこにはなぜかメロンが落ちていて、その茎にひっかかった10センチくらいのちっこい人形が、バタバタと宙に浮いた状態で足を動かしている。
「……なにこれ、メロン……と、人形?? なんでこんなところにメロンなんか……?? それにやけにリアルな人形だ」
河原にメロンが落ちているという違和感のある光景に目を奪われていると、また頭の中で声がした。
<うう。やっと見つけてくれた!! 遅いぞ、ばか!! ねえ、早く助けてよっ、もうやだ疲れた。泣くぞ? こんちくしょー、うわぁああん>
え、えええ?? メロンも意味わからないけど、何この人形……やけに動きがリアルなんだけど。俺の頭の中で聞こえてた声ってまさか、この人形??
戸惑いつつも、俺はメロンの茎に引っかかった女の子をそっと茎から外すと、地面へと下ろした。
「ほら、取れたぞ」
するとその小さな女の子は両手を挙げて。
<あああ!! やった、やっと解放された!! 立てる!! 立てるぞ、自分の足で!! ああ、つらかった…… もう一生あのまま地に足を着くことなく死ぬのかと思った>
そう言うと、疲れた様子で地面に座り込んだ。
その小さな女の子は、ストレートの銀髪ロングヘアに、瞳は綺麗な緑色をしている。
パッと見た感じ、手のひらサイズの人形という感じ。
目はぱっちり二重、そして小さな口の童顔。普通にかわいい。
だが。
なんだよ、これ。
俺には人形遊びの趣味は……ないっ!!
その時の俺は、その後その小さな女の子リルアが、人間サイズに大きくなって俺の家に住むことになるだなんて、想像すらしていなかったのだ。
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