第4話 大きくなったリルア。

「へ、マジかよ、何かと思えば殺虫剤かよ……」


 リルアが指差したものは殺虫剤だった。


 ということは……カユなんとかってのは、蚊の事か? だとしたら怪物というにはあまりにも……と思うのだが。星が違えば感覚も違うのかもしれない。


<さっちゅ?? 名前は分からないが、わっちはそれが欲しい。頼む、くれ!!>


 リルアはお願いのポーズをして懇願してきた。


「別にやってもいいけど……これ、リルアにはデカすぎねぇ? それに、その宇宙船にも入んないじゃん」


 現状、リルアの身体より殺虫剤の方がはるかに大きいのだ。あげたところで持ち帰るどころか使う事すらできそうにない。なのに――


<へへー大丈夫っ>


 イタズラな笑みを浮かべながら、リルアはさっきのピストルのダイヤルをカチカチと回し、自分のこめかみにあてた。


 そしてぎゅっと目をつぶって……。


<えいっ>



 ボンッッッ————!!!!




「え!?」


 いきなりリルアが大きくなった。



「えっへへぇーっすごいだろ!? これはピコットと言って、物の大きさを自由に変えられるんだっ」


 ちゃぶ台にぺたんと座ったままイタズラっぽく笑うリルアは、さっきまでの人形サイズなんかではなくなっていて、頭の中で響く変な声でもなくなっていて。

 誰がどう見ても美少女で、誰が何と言おうが可愛い声だった。


 ただ、どこか北欧系のハーフを思わせるような銀髪に緑眼、色白で透明感のある肌は、人形かと思わせるほどの造形美。


「せっかくだから、地球人サイズになってみたぞ。ど? 可愛い?」


 なのにそれを鼻にかける様子もなく屈託なく笑うのがまたたまらなく可愛くて。


 ヤバイ、リルアのやつ、大きくなったらめちゃくちゃ俺のタイプだ。


 圧倒されてしまい、言葉が出ない。


 するとリルアは俺の方へと身を乗り出して、少しムッとした表情を浮かべながら俺の顔を覗き込んだ。


 「おい? 聞いてるのか? なぁ、クウガってばっ」


 ――ちょっと待て、反則じゃないのか?


 突然目の前にタイプの女の子が現れて、いきなりの至近距離。……ど、どーしたらいいんだ。一気に頭に血が上って行く。


 戸惑う俺は、リルアから目を逸らして答える。 


「聞いてる。聞いてるってば! あ、あのさ、そのピストルがすげーのはわかった。わかった、けど。“それ” を小さくすればいいわけで、リルアが大きくなる必要はなくね?」


 するとリルアも少し目を逸らせてから。


「んー、だって……」


 言いかけた言葉を少し置いてから、今度はまっすぐに俺を見つめて、右手で俺の頬に触れてきた。


「クウガに……触れてみたくなったんだもん」


 さっきまでの強気な言い方とは違い、どこか弱々しくて、俺の頬に伝わるリルアの小さな手は少し冷たくて。俺の心臓が小さく鳴り始めるのを感じた。


 ああ、今度はリルアの顔から眼が逸らせねぇ……


「なぁ? チキュージンて面白いな。触れると赤くなるのか?」


「うっ、うるさいなっ」



 ヤバイ、心臓が……さらに煩くなって来た。


 情けなくもこの状況から、動けねぇ……。



――――――――――――――――――――――


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