第9話 リルアに起こった異変
「きらい……って、悪かったよ。けど、なんで殺虫剤握りしめたまま使わなかったの」
俺はリルアに優しい口調を意識して話しかけた。するとリルアは興奮気味に訴えて来た。
「え、使った! ブンブン振ったけど全然当たらなかった! これ全然強くない! 全然役立たず!」
「……へ? ブンブン振った?? シューってしなかったの? ……リルア、それ使い方違う。ほら、貸してみ。こーやって使うんだよ」
リルアの言葉に驚きつつ俺はリルアの手からそっと殺虫剤を抜き取ると、『シュー』っと部屋に噴霧して見せた。
「え?? なに、それ、空気抜けた音?? その武器やる気ないの!?」
「ちがう。この中に入ってる虫を殺す薬が出た音」
きょとんとしながら聞いていたリルアに俺が答えていると、リルアは急にびっくりしたように肩をぴくりとさせ、鼻を摘まんで見事なまでの鼻声で話し始めた。
「……ん! くさい!! その武器くさい!! カユガセーダはこの匂いに鼻が曲がって息ができなくなって死ぬのか!?」
はじめての殺虫剤のにおいは、リルアにとっては強烈なようだ。
「……え? ……いや……あ……うん、たぶんそうだ。しらんけど」
「そうか……カユガセーダは臭いのきらいなんだな」
たぶん、殺虫剤で蚊が死ぬのは匂いのせいじゃないと思うけど。素人の俺には原理なんてよく分からないし、リルアも納得してるからいいかなと思う。
そんなことより話している間にすっかりリルアは泣き止んで、いつも通りといった様子になって来たので俺は密かに安心した。
……のだが。
「……あれ? リルア……ほっぺた腫れてない?? ちょっと見せて」
よく見てみれば、リルアの頬はぷくーっと信じられないくらいに赤く腫れている。
「……え!? う、わ、ほんとだ。食われた。カユガセーダに食われた。……う、気付いたら痛くなって来た!! ジンジンする!! 痛い、痛いよおおおお、うわああああああんん」
頬の痛みに気付いたリルアは、また泣き顔になって俺の胸に顔を埋めてきた。
「え、ちょ、まって、泣くな。とりあえず刺されたところ洗って冷やそう。ちょっと待ってろ」
俺はゆっくりと俺の胸に抱き付くリルアの身体を引き剥がしたのだけれど。
「やだ!! クウガ行ったらやだ。置いてかないで。やだ。寂しい。ひとりにしないで」
リルアの頬を冷やすものを取りに行こうとするものの、リルアは俺から一向に離れようとせず、むしろ余計に俺の服を両手で掴んで抱き着いてきた。
「お前は子供か! ちょっと待ってろって。すぐ戻っ……て、……え??」
そんなリルアをたしなめようと思ったのだが、リルアの異変にさらに気付いて驚いた。
「くすん、くすん。くうがのばか。きらい。いったらやだ。さみしい。いかないで。……ねーさむい。いたい。ほっぺいたいよおおお」
リルアの声は幼い子供の用になっていて。
「リルア?? お前……顔真っ赤だし、ちょっと……幼くなった??」
リルアの身体も、明らかにさっきまでより幼くなっている。
「うー? しんどい。ぼーっとする。だっこ。くうが、だっこして」
「え、ちょ、おい、待って、リルア、お前……」
――シュウウウウウウウン
俺に甘えるように抱きつくリルアはどんどん小さくなって、完全に幼女の姿になってしまった。
「……あーあ。りるあ、ぱわーなくなって こどもになっちゃった」
「……え?? まじ??」
俺はあまりの事に面食らってしまったのだけど。
「りるあ、これじゃこまる。くうがのぱわー わけて」
リルアは俺に抱き着いたまま上目遣いでお願いしてきて。
そもそもリルアがこうなったのは、リルアを一人にした俺の責任のような気もして。
「え? 俺のパワー?? いいけど、どーやって。あげられるならいくらでも!!」
つい、正義感も相まってそう言うと。リルアは にやっとイタズラっぽく笑った。
「じゃあ……いっただっきまぁぁぁすっ♡」
そして、リルアは俺の頭をしっかりと両手で抱き寄せ、これ以上ないほどの力で俺の唇に自分の唇を強く押し付けた。
——チュウゥゥゥ———————————!!!!
えええ!? 俺、リルアにキスされてる!?
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