第7話 眠るリルアに襲われた

 リルアの身体からは、どことなく甘い香りがする。

 抱き上げられてもなお呼吸は乱れることなく、くてっと俺の胸に頭をもたれさせながらスースーと寝入っている。


 おいこら、地球人だったら、ありえねーぞ。初対面の男ん家に上がり込んで眠りこけるなんて。……まぁ、リルアだしな。



 俺は変に納得してくすりと笑うと、布団の上へとリルアを降ろした。へにゃりと俺にされるがまま布団に降ろされるリルア。


「……ホントに寝てんのか?」


 なんとなく、なんとなくリルアのほっぺたを摘まんでみると、ふにふにとした柔らかい感触がする。その感触は地球人のそれとは少し違って面白い。マシュマロのような、つきたての餅のような。低反発マットのような、冷却ジェルのような。


 とにかく、少しひんやりと冷たくて、肌に吸い付くように柔らかくて、ふにふにとしている。


 なのにリルアときたら、どんなに俺が頬を摘まんで遊んでいても一向に起きる気配はなく、すーすーと一定のリズムで寝息を立てている。


 マジかよ……マジ寝し過ぎだろ……。


 なんとなくいたたまれなくなった俺は、リルアの頭をくしゃくしゃと撫でてから、その場を離れようとした。


 途端。


 フワッとリルアの両腕が伸びて来て、俺の頭をリルアの顔の真横に抱きしめられた。


 え。なに。


 突然のことに、俺の顔がカ――ッと熱くなる。


「……ん、むにゃ、くう、がぁ……」


「え、ちょ、おい、リルア!? きゅ、急に抱きつくなよ、おま、……起きて?」


——はむっ


「っえ!!」


 寝ぼけるリルアに耳を唇で甘噛みされた。


「むにゃむにゃむにゃ、んー、りるあ、ましゅまるなも、すきい……」


「え、ちょ!! り、りるあっ み、耳、俺の耳、食うな、ちょ、う、うぅ」



——はむはむはむ


 

 どんなに俺が動揺してうろたえていても寝ぼけたままのリルアはお構いなしだ。


 リ、リルアの唇、柔らか過ぎだろ。


 俺の全神経が右耳に集中してしまっている。これは、早く抜け出さないと……


「んー、おいひぃー」


「ちょ、リルア、離して、おい、こら、ほんとに寝てるのかよ。ちょ、おい、抱きつくなっ」


 このままでは俺の身がもたない。そっと身体を捩じらせ、抱き着くリルアから抜け出した。


「……はー、やっと解放された。これでもまだ寝てるとか、あり得る? ……宇宙人てみんなこうなのかな、それともリルアだからなのか……」


 そのまま眠るリルアは幸せそうな表情で。

 ……つい、見惚れてしまうほど可愛い。


「はぁ、ここにいたら俺の心臓がもたねぇ……。それになんか、腹減って来た」


 こんなに寝てるなら、急いでいけばコンビニくらい……大丈夫だよな。



 俺は自分の心臓の安全と食料確保のため、コンビニに行くことにした。



「リルアー? ちょっと買い物行ってくるからな? そのままちょっと待ってて」


「すぅーすぅーすぅー」


 一応声を掛けてみるが、相変わらずリルアは気持ちよさそうに無警戒なまま眠っていて。


「まぁ、寝てるんだけど。よし、じゃあ今のうちかな。……いってきます」


 俺は小声で話しかけると、眠るリルアを残して部屋を後にした。



——キィ……パタン


——ブーン


 この後リルアにあんなことが起こるなんて、知りもせずに。

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