episode23
「うわ、浮いてるみたい」
彩は窓に張り付くようにしてはしゃいだ声をあげた。二人の乗るゴンドラはゆっくりと上昇していく。上から見たテーマパークは、同じ動きを繰り返すネジ掛け式のおもちゃのようだった。一定の速さで回るこの観覧車もおもちゃの景色と溶け込んでいるのだろう。観覧車に乗ったのは、二人きりの空間で以前から気になっていることを聞き出したかったからだ。彩の鼓動はいつもと比べて確実に速くなっている。
「高いところ好きだよね」
のんびりとした口調で咲矢は、景色に夢中になっているふりをして様子を伺う彩に言った。
「うん、大好き」
外を向いたまま答え、咲矢の隣に座る。
「こっち側座っていい?」
「もう座ってるよな」
言葉にしては満更ではなさそうな様子だ。
「いいんでしょ?」
「もちろん」
彩が笑いかけると、咲矢の顔にも笑みが浮かんだ。その顔から目を逸らし、口角をゆっくりと下げた。
「あのさ、」
「好きな人がいるのに、自分に好意を抱いてる相手とデートする人って、正直どう思う?」
咲矢と一緒に過ごす時間は、楽しく、安心できる反面、最近は罪悪感も感じていた。咲矢が時折見せる寂しげな表情が、自分のせいなのだったら、もうこの関係はやめるべきだろうと思う。この質問は、その彩が咲矢の隣にい続けてもいいのか、それを判断するためのものだ。右手で左手をぎゅっと握りしめる。
咲矢は右手を首の後ろに回して答えた。
「それは、サイテーだな」
ゆっくりと下降しているはずのゴンドラが一気に落ちて行ったような気がした。
「だよね、、」
「好きな人いる相手を追いかけ続けてる俺くらいサイテー」
「え?」
「結城は何も気にしなくていいんだよ。側に入れたら俺は満足だから」
咲矢はの瞳は目の前の空を見つめていて、何も読み取ることができない。
ゴンドラはどんどん地上に近づく。
「付き合おう」
ドアが開く直前、口をついた言葉で、言ってから自分でも驚いていた。
咲矢は無言でゴンドラを降り、彩も後ろに続いた。早足でゲートを出てそのままずんずん歩いて行く咲矢を小走りで追いかけながら、彼の歩幅はこんなに大きかったんだと気付く。いつも合わせて歩いてくれていたのだ。
「同情とかならいらないよ」
急に立ち止まって咲矢は一言そう言った。
「そんなわけない。私そんなに器用じゃないから」
彩は今日一日持ってもらっていた鞄を掴んで、意味もなく引っ張る。
「好きなやつはどうするんだよ」
「もう、会うこともない人を好きなんてどうしようもないよね。観覧車の中で気づいたんだ。私が恋してたのは彼についての思い出だった。こんな言い方したら咲矢を利用してるみたいだけど、もう蹴りをつける時だって思う」
一気に言い切り、答えを待つ。咲矢は、少し考え、何事か決心して、彩の告白に応じた。
「付き合おう」
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