episode21
4回目のデート
重い荷物を背負って駅へ向かう。寝不足で朝日が眩しい。荷物の中身は、昨日の夜バイトから帰って来た彩が一人で台所を占領して準備した、四人分のお弁当だ。四人とは、彩と咲矢、そして詩音と彼氏の清水君の分だ。今日は詩音の提案で、ダブルデートに行くことになった。彩たち三人は、同じ中学で知り合いなのだが、咲矢は詩音たちとは面識がない。たぶん咲矢なら気にしないだろうという彩の予想通り、本人は「楽しそう!」と、快く承諾してくれた。
行き先は、隣の県のテーマパークだ。賑やかな場所は大人数の方が楽しいだろうと思った彩の提案だ。そしてカフェでのバイトで身につけた腕を披露することになった。
お弁当といっても、小学生の頃家族で食べたお重に敷き詰められた食欲の唆る茶色のお弁当ではなく、カラフルなサンドイッチを敷き詰めたものだ。これは、Lillyでゆり子さんが開発したランチ用のレシピだ。全て詰め終わると、大きめのポットを用意して、紅茶を淹れる。茶葉は最近お気に入りの香り高いダージリンにした。詩音が甘い飲み物は得意ではないので、砂糖入れていない。
梅雨入り直前の暑さを含んだ空気が頬を掠める。改札を通り、駅の待合室に入ると、もうクーラーをつけていた。端の席に座り、時計を確認すると、詩音と決めた電車の来る十分前だ。テーマパーク行きのバスがある主要駅で四人集まることにしている。そこまでは、詩音と二人で向かう。ちょうど五分後、詩音はやって来た。
「おはよー、元気にしてた?」
「久しぶり、気楽に過ごしてるよ」
「わかる。大学生って案外時間あるよね。だからこうやって学校離れても会えたりするんだけど」
少し髪の伸びた詩音は、運動部に入っていた高校生の頃から一段も二段も大人っぽくなっていた。それに加えて、久しぶりに彼氏の清水君に会う日なので、念入りにオシャレをして来ている。
「楽しみだなー彩の彼氏。今回はクズじゃ無いといいけど」
「咲矢はクズじゃないし、今まで付き合って来た人たちもいい人だったよ」
「彩にかかればどんなやつでもいい人なんだから。すごいよ。優し過ぎ」
「詩音がそう言ってくれるから、私結構優しい人間だと思ってたけど、彼は私の何倍も優しいんだよ」
詩音は前々から口にしている事を今日も言って来た。
「そんなにいい人なら付き合ってもいいんじゃない?」
「いい人だから、私にはもったいないの」
彩のきっぱりとした態度に詩音は少しぼやいて、でもそれ以上は何も言わなかった。
「ねえ、これ今日のランチ?」
詩音は隣の大きなカバンをしげしげと眺めて言った。
「そうだよ。あ、ちょっとこれ味見してくれない?」
準備の時、コーヒー派の詩音が気にいるかどうか心配していたのだ。
「え、飲み物まで準備してたの?」
「うん。だって私のバイトの腕前披露だからね。カフェに飲み物なしはだめでしょ」
詩音に水筒を差し出す。詩音なら彩に正直な感想を言ってくれるので、そう言う意味でも飲んでみてほしかった。
詩音は渡された水筒の半分ほどを、一気に飲み干し、彩をまじまじと見た。
「彩、これめっちゃ美味しい。こんなに美味しい紅茶初めて飲んだよ」
「やった、研究の甲斐があった」
「ほんと楽しそう。バイト先、いいとこみたいだね」
「うん、小さいとこだけど。ほんとに良くしてもらってる。あ、そう言えば面白いお客さんがいて」
なんとなく思い出した「コーヒーの君」の話を、詩音はなになに?と前のめりになって聞いてくれた。
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