episode12


「ストーリー重視の映画だと思ってたけど、意外とアクションもこだわってたんだね。予想以上に面白かった」

 シアターを出た瞬間、咲矢は感極まってと、いう様子で話し出した。

「あれだけ戦い抜くのに、結局、愛のための戦争だったって最後わかるのがいいんだよな。クライマックスは鳥肌だった」

「だよね。最後の最後で敵も味方もわからなくなって、それでも戦わないといけないって、子供の頃衝撃的すぎた。これの原作が児童書なのも攻めてるよね」

 大迫力の演出と、咲矢の熱が伝わり、彩も思わず語りに力が入った。子供の頃から何度も読み、何度も観てきた話だったが、感想を語り合うのは初めてだった。

「これはもう、原作も読みたい。本屋寄ってもいい?」

 きた!彩はバッグに手を突っ込み、目当てのものを引っ張り出す。

「じゃーん!持って来たんだ!」

 厚さ3センチほどのハードカバーの本を掲げる様にして見せた。重いし、嵩張るが、どうしても持って来たかった。表紙に貼ってある物語と全く関係ないシールは、読書感想文で、大賞に選ばれた記念で、担任の先生がくれたものをそのまま貼り付けた。

「うわ、ありがと」

 咲矢はまるで賞状授与の様に、丁寧に本を受け取った。彩の宝ものの本をそんなふうに扱ってくれて、やっぱり持って来て正解だったと思った。

「返すのはいつでもいいよ。それに無理に自分の趣味押し付けたくないから読んでも、読まなくてもいい」

「ここまでしてくれて、そんな言い方しないでよ。『感想教えて』くらい言ってよ」

「わかった。待ってるね」

「ん、待ってて」

 顔が熱いのは日差しが強いせいで、力強く頷く咲矢のまっすぐな視線のせいではないと思い込むことにした。

 お昼を食べにどこか店に入ろうかと調べたが、二人とも屋台販売の誘惑に負けて、小洒落たキッチンカーの列に並んだ。大音量で流れる陽気な音楽に似合わず、コワモテな外国人店主の車で売られているのはケバブだ。メニューは一つ。オーソドックスなケバブが一つ五百円で売られていた。

「こーゆう店ってすごく美味いか、それほどかの二択だよな」

 注文する直前、咲矢は彩に耳打ちした。それぞれ一つずつ受け取り、一口頬張ると、咲矢の言う二択のうちどちらの店かは、はっきりした。スパイシーな味付けの肉に、新鮮な野菜、間違いなく大当たりだ。

「おいしー!」

「俺、余裕でもう一つ食べれる」

 あまりのおいしさに車のすぐ横で、二人顔を綻ばせる。

「アリガト」

 その様子を見て、コワモテ店主もにっこりだった。彩と咲矢も笑顔をと返す。

 お腹を満たした後、すぐ近くのベンチに座り、二人はいろんな話をした。「どうしてこの大学に決めた?」「好きな音楽は?」「子供の頃好きだったゲームは?」「伊達メガネってどう思う?」

 咲矢の質問責めに彩は息つく暇もなく答え続けた。「家から近くて英語が強いとこだから」「邦楽ロック。ライブハウスとか行くの大好き」「王道に任⚪︎堂」「おしゃれなのはいいけど度も色も入ってないレンズは理解できない」

 スカイブルーだった空は雲行きが怪しくなり、キッチンカーが店じまいしたのにも気付かず、二人は記者とインタビュイーさながらに話し続ける。

「じゃあ、一日分だけ過去をやり直せるとしたら、いつに戻る?」

「中学の卒業式」

「何のために?」

 ここでとうとう雨が降り出した。

「野暮用」

 この話題を切り上げる様に立ち上がる。

「雨、限界かもね。場所変える?」 

 彩の提案に、咲矢は首を振った。

「もういい時間だし、そろそろお開きにしよう」

「そうだね」

 彩の大きなカバンの中には折りたたみ傘が入っていた。一つの傘に二人で入ってゆっくり帰ることも考えたが、傘はしまったままにして、バス停まで走った。慣れた靴で来て本当に良かった。

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