episode11

2回目のデート


 待ち合わせは大学から少し離れたショッピングモール。ベタに映画デートを提案したのは彩の方からだった。ちょうど観たい映画があったのだ。

 この季節がずっと続けばいいのに、なんて考えながら、まだまだ春の匂いが残る空気を全身で感じて、待ち合わせ場所に向かう。

 前回の反省を踏まえ、今日の靴は厚底のスニーカーだ。アイボリーの靴は汚れが目立つので、外には向かないが、今日のプランなら大丈夫だろうと、履くことにした。足全体が覆われているデザインでは足を痛めることはないだろう。約束の二十分も前に到着したと言うのに、待ち合わせ場所にはすでに咲矢の姿があった。

「お待たせ、って今回は私が聞く番だと思ったのに」

 少し文句がましく言うと彩に、咲矢は柔らかな笑顔を向ける。

「ごめん、この役は譲れない」

「誰かを待ってる時間嫌いじゃないんだ。会おうって約束があるって、幸せなことだよな」

「私は待つの苦手。それに待たせるのも苦手」

「結城は真面目なんだよ」

 そうじゃない。ずるいんだ。蓮斗のことを待ち続けることもできないし、咲矢の気持ちを知りながら待たせ続けている。こんな私と一緒にいてくれる、真面目で優しい咲矢とは正反対。

「早く行こう」

 彩の表情が微妙に暗かったからなのか、咲矢は通常より、少し明るく声をかけて歩き出した。

「荷物重くない?持とうか?」

彩の持つ大きめのショルダーバックは、そこそこの重量がある。どうしても持って来たかったものがあるのだ。まだ咲矢に、中身を見られるわけには行かないので断った。会って早々、今日は気を使わせてばかりいる。これまでの付き合いでは、彩が徹底的に相手を気遣っていることばかりだったので、何だか申し訳ない。そのことを口にすると、咲矢は「俺、何もしてないけど」と、真顔で言った。

「今日だけじゃなくて、大学でも。私、こんなに一緒に過ごしやすい人と出会ったの人生で2回目」

 1回目は、もちろん詩音だ。

「嬉しいけど、俺はちょっとルール違反してるからな」

「ルール違反?どう言う意味?」

「説明するのは難しいんだけど、マジックみたいなもの」

 心理学の応用でもされているのだろうか。それはそれで面白い。むしろ伝授してほしいくらいだ。咲矢はたまに不思議な事を言う。前も、大学デビューについて話していた。ピアスについて、彩が「開けてみようかな、でも痛いの怖いなぁ」と相談すると、

「ロブならしっかり冷やしたらそこまで痛くなかったよ」と、まるで開けたことがある様な口ぶりだった。咲矢直線的な横顔をいくら見つめても、ピアスホールはない。指摘すると、何となくはぐらかされてしまった。もう綺麗に塞がってしまったのか、単なる言い間違いか、特に追求することもしなかった。

 今日見る映画は、彩が子供の頃大好きで、何度も読み返した小説シリーズだ。いつか、テレビ放送された時の録画は何回も観ている。それだけに、今回のリバイバル上映は行かないと言う選択肢はなかった。

「でも良かったの?新作の映画でもないのに付き合ってもらっちゃって」

「いいよ、結城がこのシリーズ好きなの知ってるし。俺も観てみたかったから」

 公開してまだ5日だが、学生の特権で、平日に観にきたため、席は十分に空いていた。

「席どこがいい?」

「端の方でもいいかな?あと、出入りしやすい方がありがたいかも。気軽に立てない席だと緊張しちゃうから」

 彩の要望を聞き、咲矢は入り口側の端の二席を選んでくれた。発券して、通路側の一枚を彩に渡す。一列目を占領しているカップルシートには二人とも目もくれなかった。

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