5.地獄は魔法の国みたい!?ラブラブもいっぱいだ!!

「さあ、ご飯も食い終わった所だし、地獄の道案内でもするか!」

「あ、ありがとうございます!!」

「着いてきな!!」

「はい!」


樋口さんは立ち上がり、食器を持って歩き返却台に置いた。

僕もそっくりそのまま真似をする。

そして、樋口さんの後ろを着いていく。


「さっきから、すげえおとなしいやつだなあ」

「あ、はい、すみません・・・」

「いや、いいよいいよ、まあたまにいるからな。

大体の奴は、気性が荒かったり、趣味が偏ってたり、激しいんだけどな」

「樋口さんは、凄く優しいですね。地獄の住人に思えない」

「ああ、俺か?俺はな、結構長く居るからな。

最初は反抗的で、暴れては檻の中に入れられたり、オブジェにされたり、最悪殺されたりしてな」

「殺される・・!?

そんなことあるんですか?」

「ああ、地獄でも死ぬ事はあってな。

肉体は一回消えるが、一ヶ月くらいすると、また同じ肉体として浮かび上がってきて、蘇るんだ。

ほら、ここ見なよ」


そう言って、樋口さんはシャツの袖をまくって、肩を見せてきた。


「ここに、正の字があるだろ。

俺は正の字二つと、棒が三つ。

合わせて数えると13本。

13回、死んだって訳だな」


「き、刻まれてるのですか?」


「そうだ。死んだ回数が、ここでわかるようになっている」

「そうなんですね・・・」


13回。

凄い量じゃないか。

それほど、殺されるほど、何か喧嘩をしたり、罪を負って死刑になったり、或いは自殺をしたり・・・。


「まあ、俺の場合は、決闘で負けてが多いけどな。

10回はそうだ」


「決闘?」


「そうだ。

あの住んでるアパートあるだろ?

あの地下が、決闘場になっているんだ。

今度そこも案内してやるよ。

基本、1対1で、殴り合いの蹴り合いよ。

殺したら負けなんだがな。それでも勢い余って殺す奴が跡を立たねえ」


「恐ろしい世界ですね・・・」


「まあ、恐ろしいだけじゃないよ、ここは。

気付いちゃいないか?

さっきの食事場も、何かおかしな事なかったか?」


「え・・・わかりません・・・」


「そうか、まあ、おかしいって訳でもないんだがな。

他の席を見渡したか?

半分以上は、男女仲良く座ってただろ。

恋人同士、隣同士で座って、仲良く食べてるって訳よ」


「あ、確かに、カップルっぽい人達が多かったような」


「そうだ。ここは恋愛が盛んなんだ。

みんな、暇を持て余しているからな。

恋愛くらいしかすることない。

地獄で、恋だとか、愛の形だとかを知るなんて、皮肉なもんだよな。

でもな、みんな、愛し合っているって訳よ」


「はあ、凄いですね・・」


「あ、ほら、ここが公園だ。

カップルいっぱい居るだろ。

場所の取り合いみたいな感じあるからな」


公園も、電灯に照らされ、ブランコや滑り台、砂場など、色々な遊具が見える。

そして、どこも、カップルが遊んでいるようだ。


「みんな楽しそうだろ。

あんまり見たら申し訳ないから、さっさと行こう」


そう言いながら、樋口さんは、公園の中に入り、砂場で遊んでいるカップルに話しかけた。


「よう!何作ってんだ!!」


「あ、ひぐっちゃん!そこのは?」


「ああ、こいつは新入りだ」


「堀越翔太と言います」


「ああ、なんか暗いな!笑」

「もう、だっつん!そんな事言っちゃダメだよ!」

「ごめんごめん、なっつん!」

「だっつんの優しい所が好きなのに」

「俺の優しさはなっつんにだけだよ」

「もう!うれしいけど!!」


「おい!いちゃつきのスピードがはやいぞ!」


「ああ、ひぐっちゃんごめんよ。

ずっといちゃついてたから、急に普通に戻れなくてよ。

いま深呼吸するわ」

「わたしもー」

「ちょっと!口近づけるなって!」

「いいじゃん。深呼吸しているだっつんの口にちゅーするの!」

「やめろう!うれしいけど!!」


「・・・もう行くか」

「・・・はい」


そうして、公園を去って行った。


「まあ、公園は人気スポットだな。

でもな、遊具は全部壊れているんだ。

滑り台は破れていて、ブランコは片方の綱が落ちていて、馬の乗り物はインクが剥がれてセメント色だ。

でも、それが逆に良いって、佐竹様が言うから、このまま修理しないんだ。

ああ、佐竹様って、あの地獄の入り口に居たでっけえ鬼な。

あの人が行事やら施設やら色々決めるからな。

そうだ、行事といえば、今はお祭りの準備中なんだ。

それでな、お前に一番見せたいもんがある。

でも、それは最後にとっておきたいから、他のスポットもさっさと見せるぞ!!」


そう言って、樋口さんは、軽く走り出した。


「来いよー!!」


急にテンションの上がった樋口さん。

見せたい物が、よっぽどの物なのだろうか。


「はい、これが、自動販売機。

何をわざわざ紹介って思うかもしれないけれど、中見てみ。

小さな変な動物が居るだろ。

じゃあ、この、アライグマみたいなののボタンを押します」


ガタン。

自動販売機の入り口に、変な動物が落ちてきた。


「ほら、これ。今日からおまえのペットだ。

可愛いだろ」


「え、あ、ありがとうございます」


たまたまかもしれないけれど、その動物は、とても僕の好みに見えた。

クリっとした大きな瞳、茶色くて綺麗な艶みの毛、可愛い白い斑点。

ただ、鼻の穴が、四つある?


「こいつの名前はな、無いんだ。オリジナルよ。

ほら、自販機見てみ。もうさっきの所、別の動物になってるだろ。

こいつは世界で一匹、いや、地獄で一匹だ。

鼻の穴が四つあるのが特徴だから、アーナーフォーって名前はどうだ?」


「え、いやだ・・・」


「ははっ。お前も断る事出来るんだな!

なんでも言いなりになるんじゃないかって、心配してたよ」


「ああ、はい・・・」


「この自販機な、お金入れなかっただろ。

なんでかっていうとな、お金ってのは、地獄にはないんだ。

なぜなら、車屋に行けば無限に車がある。

そして、車を捨てたくなったら、一瞬で消せる。

それが死後の世界なんだ。天国もそんな感じみたいだよ。

だから、資源が無限で、欲しい物は手に入るから、お金はないのよ」


「便利ですね・・!!」


「まあな。

魔法の世界な感じもあるからな。さっきの動物だって、すぐ次の現れただろ?

そういう、楽しい事も、いっぱいあるんだ」


「はあ、いいですね!」


「うん!

そしたら、もう少し色々紹介してから、一番見せたい物を、見に行こうか!!」


「はい!!」


こうして、地獄巡りは楽しく続くのであった。

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