3.懺悔の時間。僕はこんなイジメを受けていた

世界は絶望に感じた。

目に見えるもの全てがこちらを睨んできている。

目に見える音全てが僕の悪口を言っている。

そう思えるほど、僕は追い詰められ、おかしくなっていた。


洋服を脱がされ、裸になっている写真が、学校中にばらまかれていた。

ロッカーに閉じ込められたり、バケツに入った水をぶちまけられたり。

殴られ、蹴られ、サンドバッグに。


そんな毎日だったが、決定的な事が起きた。


隣のクラスに、もう一人、いじめられっ子が居た。

名前は、小竹雄二。

学年でいじめられているのは、僕と小竹だけ。

僕ほどではないが、小竹へのいじめも、激しいものだった。


その日の放課後、僕はまた、帰る事ができなかった。

いじめの主犯格三人に囲まれ、シャーペンの芯を飛ばされて、遊ばれていた。


その時、廊下を歩いていた小竹が教室に引っ張られ、引きずり込まれ、僕の目の前に立たされた。


「おい、堀越。

これ以上シャー芯を飛ばされたくなかったら、小竹の事を殴れ。

そうだな、シャー芯をただ飛ばすだけじゃない。

おまえのズボンもパンツも下ろして、チンコに向かってシャー芯を飛ばしてやる」


何を言っているんだ。

すぐには理解出来なかった。


「ほら、小竹を捕まえた。

こうして縛り付けている間に、殴るんだ」


小竹は、二人に両腕を掴まれ、抵抗しても動けなくなっていた。


「さあ、はやく。

あと十秒だ、0になったらズボンを脱がすからな。

10、9、8、」


僕は、頭が真っ白になりながらも、パンツを脱がされシャー芯を飛ばされ、それを見て笑われるのは、ごめんだと思った。全身でそう感じた。

でも、小竹に申し訳ない。殴るなんて出来ない。

でも怖い。どうしよう。やだ。最悪だ。


「4、3、2」


僕は、自分の事が大嫌いになりながらも、小竹を殴っていた。

泣きながら、声にならない音を、叫びながら。


「あはははは。

そう、それでいいんだよ。

もう一発。

いや、もう二発だな。

殴れば、今日のところは帰してやるよ」


僕は、泣きながら、小竹を、殴った。

一発、二発と。

そして、僕の周りからいじめっ子は消えて、小竹はうずくまり、泣いていた。


その時、僕は、死ぬ事を決意した。


前々から、死にたいと思っていた。

でも、なにか、生きる事へ、まだ諦めていなかった。

わざわざ死ぬまでもない。そう思い、耐えていた。


でも、この時。

僕は、死ぬに値する人間だ。

みんなから嫌われ、ボコボコにされ、そして、こんなにも醜い。

もう一人のいじめられっ子を、自分を守るために、殴りかかる。

そんなにも、醜い人間なんだ。

そう思い、死ぬ事にした。




「おう、話してくれてありがとう。

それがきみの、懺悔だな」


巨大な鬼は、そう言って、僕の目を真っ直ぐ見てきた。


「はい、これが僕の、懺悔です」


「よし、そうだな。

しっかりと伝えてくれてありがとう。

それでは、懺悔を受け取り、お前を地獄に住まう、儀式を行う」


鬼は、立ち上がり、空に向かって叫んだ。

大きな声で、力一杯。

その声は、少しだけ、泣きそうな声に感じた。

僕の勘違いかもしれないけれど。

少し、悲しそうで、少し、泣きそうで、少し、苦しそうだった。


「ふう。

それでは、お前の住処のアパートに、案内する。

着いてこい」


僕は、鬼の後ろを歩き、着いて行った。

暗闇の中、電灯の光で、照らされている。

恐ろしい石像、恐ろしい針山、恐ろしい檻。

物騒な物が溢れている中、アパートに辿り着いた。

アパートは、思いの外新しく出来ているように見えた。

綺麗で、自動ドアで中に入り、インターフォンには番号の着いたボタンがあり、それを押して扉の鍵を解除するようになっていた。

ただ、鍵でも開けられるようだ。

鬼はポケットから鍵を出し、自動ドアの下の方にある鍵穴に刺し、ひねった。


「ここの、502号室が、お前の住む部屋だ。

ああ、言っておくが、一人部屋じゃないぞ。

一人だと気が触れて、また自殺する者が多くてな。

誰かと一緒に暮らす事になっているんだ」


僕は、緊張しながら、エレベーターに乗った。

そして、鬼の後を着いていき、502号室の前に辿り着いた。


「さあ、チャイムを鳴らすんだ。

中から、お前の同居人が、現れてくる。

そしたら俺とは解散だ」


僕は、おそるおそる、チャイムを鳴らした。

ピーンポーン。


「はーい」

「あ、新入りだ。お前と暮らす事になったから、世話してあげなよ。

なに、可愛い奴だ。怖がらせるなよ」


鬼はそう言って笑った。


そして、扉が開かれた。


「よう、初めまして。

俺の名前は樋口圭介。

これから、仲良くしような」


ガラの悪さを感じず、悪人っぽさは全然無かった。

むしろ、好青年に見えた。

どんな悪い奴と一緒に暮らすのだろう。

そう心配していたのが、吹き飛んでいった。


「あ、初めまして。

堀越翔太です。

よろしくお願いします」


「翔太君ね、まあ、入って。

佐竹様、案内してくださって、ありがとうございます」


「おう、じゃあな!!」


佐竹って言うのか。鬼だけれども、日本人なのかな。

最後の最後で意外な発見がありつつ、その鬼、佐竹は、帰って行った。


「まあ、中に入りなよ」

「はい」


言われたまま、中に入ると、そこには驚きの景色、と言っても。

物凄く散らかっていた。

空き缶やゴミが散乱していた。


「じゃあ、これからよろしくな。

なに固くなっているんだ。適当にくつろぎなよ」


確かに緊張で固くなっていたけれど。

動けず固まっていた理由は、それだけじゃなく、ゴミ屋敷へのおぞましさであった。


「じゃあ、ここにジュースのペットボトルがあるから、乾杯だな」


汚い部屋のジュースも、飲まなきゃいけないのか。

僕は、ペットボトルを受け取り、おそるおそる蓋を開け、乾杯をした。


「いえーい!!

まあここは、最悪な事もあるけど、慣れたらまあまあ楽しいぜ。

じゃ、疲れただろ。今日はもう寝るか!」


まあまあ楽しい事なんて、あるだろうか。

そう疑問に持ちながら、僕はどうやって横になればいいかわからず、ぼんやりしたのであった。

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