2.列車から降りると、地獄の支配者が待ち構えていた

「さあ、もうすぐ着くぞ」


この列車に揺られて、僕の気持ちは張り裂けそうだ。

もうイヤだ。帰りたい。生きている世界に戻りたい。

死ぬのはこんなにも辛い事だったのか。

これだったら、あれほど辛いと思っていた毎日のほうが、よっぽどマシじゃないか。

恐怖が僕を包みながら、列車がゆっくりと止まっていく。

天井の鬼達は、ニカニカと笑っている。


「ほら、着いた。さあ、降りるんだ。

おまえとはここでお別れだ。

降りたら真っ直ぐ歩くんだ。

周りは暗闇だが、地面に向けて光が照らされていて、一本道が見える筈だ。お前がよっぽど目が悪くなければな。

その道を数分歩けば、でっけえ鬼の元に辿り着く。

そいつの元で、お前はお世話になるんだな」


運転手の豚は操縦席から振り向いてそう言った。

僕はおそるおそる、列車の入り口から足を外に下ろした。


列車はすぐに出発して、瞬く間に見えなくなった。


豚が言っていた通り、辺り一面暗闇だが、地面には白い道があり、真っ直ぐと向こう側へと伸びていっている。

僕は、恐怖で泣きそうになりながら、その道の上を歩いて行った。


段々と、向こう側に、光に照らされた大きな家が見えた。

近付くに連れてわかっていったが、家は木造で、マンションで言う10階立てくらいの高さがある。茶色い壁に大きな玄関がある。

そして、家の隣に、裁判所で裁判官が座っている場所のような大きな机が見え、そこに肘を付けて、巨大な鬼が座っていた。


「おう、よく来たな。

いや来ちまったな。

しょうがないやつだ。

いや、しょうがないやっつだ。

略して、しょうがナッツだ。

しょうがのかかったナッツ。とても酸っぱい。

しょうがナッツでも食べるか。

いや、いらないか。

まあ、いい。そこの椅子に座れ。

はやく座るんだ。座るんるんだ」


巨大な鬼は、変な口調で変な事を口走りながら、真向かいにある小さな椅子に座る様、僕を施した。


僕は呆気に取られながら椅子に座った。


「さあ、お前は地獄に着いたって訳だ。

地獄の中の、ここはB-5328だ。

地獄はだだっ広いからな。どんどん人が増え、減る事は無い。

だから区域が分かれていて、一つの区域に俺の様なでっけえ鬼が一匹ボスのように居て管理しているって訳だ。

お前が来るってんで、俺はこうして座っているが、いつもは家の中で、くつろぎながらモニターで地獄を監視したり、ペンギンのフィギュアで遊んだり、ペンギンのゲームで遊んだり、ペンギンの抱き枕を抱いたり、ペンギンのプラスチックのおもちゃが浮いているお風呂に身を浸したりしている。

ようは、ペンギンが大好きって訳さ。お前はペンギンは好きか?」


困ったな。変な所に来ちまった。

さっきまでの恐怖は、変な形でほぐれ、逆の意味で怖いが、この大きな鬼と、会話をしてみる。


「ペンギンは、普通です・・・。

水族館で見たら、楽しいです・・・」


「そうか、好きじゃないのか。

じゃあ、お前は地獄の中でも最凶の場所に飛ばしてやるよ」


なに。急に怖い。僕の口元が思わず歪む。


「なんて。冗談だよ。

ペンギン一つでそんな変わる訳ないだろ」


流石地獄だ。冗談も怖い。洒落にならないって訳だ。


「さあ、本題に入ろう。

きみ、名前は堀越翔太。

14歳。中学生だったな。

えー、地獄に落ちた理由は、住んでいるマンションの12階から飛び降りて自殺。

それでここに来た訳だ。

自殺の罪は重たいからな」


改めて、自分の状況がわかってくる。


「きみが、何故飛び降りて自殺したのか、話してもらおうか」


なんで。イヤだ。思い出したくない。

やっと解放されたと思ったのに。

そう、地獄は恐ろしく最悪だが、その間、忘れる事が出来ていた。

そういった意味では、気持ちが楽になっていたのに。


「なんだ。黙り続けて。話したくないのか。

しかし、自分の罪を懺悔しなければ、この先に続かないからな。

俺がペンギン不足の禁断症状で暴れ出す前に、正直に、しっかりと、話すんだな」


仕方ない。

思い出して、話すしかない。


「僕は、いじめられていました。

それも、とても酷いいじめを。

それは、地獄のようないじめでした」


ここから、僕は、自分のいじめについて、思い出しながら話を始めた。

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