第66話 職員と試食会
目の前の光景をマユユは見て微笑んでいる。
もし自分が仕入れをして来た商品が、商業ギルドの職員に絶賛されたら嬉しいはず、でも言葉も出せない沈黙はただただ脅威だ!
その様な物を此処に出せた事でマユユは鼻高々である。
食べ終わった職員は、りんごの残り香を深呼吸して受け止める、そして。
「マユユさんありがとうございます、この御恩は忘れません」
「そうです、私達の為に新作を! それもあの店の新作を食べさせて頂いてありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
「それでお代はいくらですか、やはり銀貨一枚です?」
「先輩新作ですよ新作!倍は払わないとね」
「本当にマユユさん、いくらなんです?」
試食した者たちの話に、少し為を作ってマユユは答える。
「一個銅貨2枚、そしてレシピの料金で銅貨一枚を渡す、実質今までこの界隈で売っていたパンの倍だけどどうかな?」
マユユさんの提案に、試食した受付嬢達は驚く。
「それで良いんですか?」
「マユユさん!儲けが少な過ぎません?」
「この美味しさで、もう少し高くても良いんでは!」
「そうよね、柔らかいパンだしね!」
「あの店の店主が言うには、パン職人たちの仕事を奪うつもりは無い、このレシピを教える事で、もっとパン職人たちに頑張って貰いたいそうよ!」
余りの安さに、職員たちはビックリしている、そして今なお外に居て街の中に一歩も入れない店主を憐れんでいる。
「そんなお心をお持ちの方が、この街に入れないなんて不便です」
「そうよ、彼の方がこの街に入って来れば、もっと美味しい物が街に溢れるのに」
「私だって、夜出たいわよ、アルコールもあるお店だって、食堂で冒険者達が話していたわよ」
「そうよ、あの店限定、中には一滴たりとも落ちてこないわよ」
「でもどうしてマユユさんは、このパンの作り方を教えてもらえるんですか?」
マユユは微笑みながら新人を指差して言う。
「貴女の家のパン職人さんが、外の店の店主さんに弟子入りして断られたのよ、でも弟子入りの理由を彼は知らなかったのね」
マユユさんに言われて新人さんは考える。
「・・・もしかして領主の父の叱咤ですか、あの店のパンを食べていると今まで食べたパンが美味しくありません! 父はあの店の大ファンですので、隠れて夜にお店に行ってビールとか言うお酒も飲んだって言っていました」
新人さんは領主の秘密をバラす。
「そうね私も買い付けて帰って来るとあの店に行ってしまうわね、でも自分に仕事を良くやったのご褒美で食べているけどね!
この街にずーっといると、あの店の味をどうにか再現したい者になりたい、だけど出来ない! さあ後はレシピを盗むだけよ弟子入りしてもね」
「ええうちのパン職人さん、盗みに行ったんですか?」
新人さんは慌てる領主邸から犯罪者を出してしまったかと。
「違うわよ例え話しよ! 大丈夫だから安心してね、それで外の店の店主さんが、此処の土地でも作れる方法を教えてくれるそうなの、私は材料は知っているけど、その一つだけでも作り方は知らないからレシピを買い取って作るしか無いの」
マユユは残った受付嬢達にレシピの買取りの提案をして来る。
「でもこの柔らかい事も教えてくれるんですか?」
「ええそこまでの契約はしてくれるって、後は今言った金額よ! どう釣り合うかしら?」
残ったギルド職員はみんなで話し合う、その時ドアが開いた。
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