第2話

 竹藪を抜けて帰り道をひたすら走り、アパートの階段を一気に駆け上がった。ドアの前まで来たときに自分の靴が汚れていることに気づき、階段まで戻って順番に枯れ葉や土を落としてから玄関に入った。

「もう帰ってきたの?」

「忘れ物した」

 勇太は適当な嘘を拵え、隠していたお年玉をポケットにしまってすぐに家を出た。

「おじいちゃんからもらったお年玉を使わなくて良かった」

 勇太は自転車に乗って近くのホームセンターに行き、虫かごを三つ買った。本当はカブトムシも飼いたかったけど、もう八月の終わりだったからか売っていなかった。

 ホームセンターからそのまま竹藪に行った。付近には駐輪場が無かったので、そのまま竹藪に沿うように自転車を停めた。到着するころにはふくらはぎや太腿がじわりと重くなっていた。それでも勇太は竹藪に入ってバッタやカマキリ、カナヘビと夢中でつかまえて虫かごに入れていった。

 小屋の左側には太い木が生えていた。茶褐色で溝のある幹を見て勇太はコナラであると確信した。見上げると幹に粘着質のようなものが光っていた。コナラの木の樹液にはカブトムシやクワガタムシが吸いに来ると図鑑で読んで知っていた。

 もしかしたらカブトムシやクワガタムシが捕れるかもしれない――

 そう思ったとき、勇太は嬉しさのあまりコナラの木に抱きついていた。固い木の幹が顔に当たって痛みを感じたが、手のひらで何度も幹をさすった。

 顔についた幹のクズを払い、勇太は小屋に入り隅に虫かごを三つ並べた。一番左はオオカマキリ、真ん中と右端のかごには何も入れていない。つかまえるのに必死でオオカマキリとカナヘビを同じ虫かごに入れたのが悪く、オオカマキリがカナヘビを食べてしまった。空いた虫かごはカブトムシやクワガタムシを捕まえたらそこに入れるつもりだった。

 左端の虫かごから音がして、床に膝をついて覗きこむとオオカマキリが餌用のバッタの体にカマを食い込ませていた。オオカマキリはやはりバッタの首に齧りついている。じっと眺めていると、バッタの中身が見えてきた。頭がグラグラしてきた。こんなにじっくりと見ることができるのは初めてで夕日が差し始めたことにしばらく気づけなかった。

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