第 弐 話:京の姫君

 上杉との合戦から三週間が経過したお昼の仙台城。


 本丸の大広間には城主、伊達だて 政宗まさむねが和服を着こなし堂々かつ勇ましく上座に腰を下ろし真斗の書状を下顎を触りながらフッと笑う。


「なるほど。さすが俺の甥っ子だ。上杉には前のいくさでの借りがあるからな。ここで借りを返しておかねぇとな」

「では、この件に我らは口を出さないと?」


 政宗の前に和服を着こなし胡坐で座る伊達家軍師ぐんし片倉かたくら 小十郎こじゅうろうに対して政宗は立ち上がり、頷く。


「当ったり前だろう。俺達が余計な口を出したら、それこそいくさだ。せっかく平和的に解決したんだ。俺達の出る幕はない」


 そう言いながら縁側えんがわへ向かい、そこから晴れた青空を見上げる。


「それで真斗は今は何処に居るんだ?小十郎」

「は!今は源三郎様と共に平安京へ行っています」

「平安京か。源の爺様も懲りねえな。まぁ、真斗の嫁探ししておかねぇと亡くなった両親に顔向け出来ねぇからな」


 政宗はそう言いながら清々しい笑顔で言うのであった。


 多くの民や貴族で賑わう昼の平安京の大道を真斗と源三郎は愛馬に乗って進んでいた。


わか、今度こそ嫁を見つけますぞ」


 だが、右側で愛馬の轟鬼ごうきに乗る真斗は酒瓶に入った米酒を飲むとそっぽを向く。


じい、俺は嫁を見付ける気はない。それよりもせっかくの京だぞ」


 笑顔で喜ぶ真斗を姿に源三郎は溜め息をく。


わか。そんな調子では亡くなられたお父上とお母上に顔向け出来ませんぞ」


 源三郎の指摘に真斗は急所を突かれた様にウッとする。


「いちいち、父君と母君の事を出すな。卑怯だぞ」


 真斗からの指摘に源三郎は逆に大いに笑う。


「わしは鬼龍家の軍師でもあります。敵の弱点を突き倒すには基本の兵法ですぞ」

「そうだなじい。おや!じい、あれは何だ?」


 真斗が指を指す方向には一際、大きな屋敷の門の前に多くの人が集まる光景があった。


 真斗の問いに源三郎は笑顔で答える。


「ああ、あれは平安京一の美女、竹取かぐや姫様への求婚を申し入れる者達が集まっておられるのです」


 源三郎からの答えに真斗は興味を示す。


「ほーお、あれだけの貴族や武士が集まると言うと竹取かぐや姫は相当、美しい女性なんだろう。じい、見に行くぞ」


 今まで求婚や嫁探しに興味を示さなかった真斗が人一倍に竹取かぐや姫に興味を示す姿に源三郎は感激の笑顔になる。


「おぉーーーーーーっ‼︎わかが異性に興味を持つとは!このじいは嬉しい限りですぞ!」


 源三郎の言動に真斗は複雑な気持ちとなり苦笑いをする。


「あははっそ、そうか。では一目、会いに行くとしよう」

「はい。ですが、あの人集ひとだかりはどうしますか?それに竹取かぐや様は求婚の条件に無理難題な品を提示していますぞ」

「求婚するかは見てからだ。それよりじい、この塀を愛馬で飛ぶぞ」


 笑顔でそう言うと真斗は乗っている轟鬼ごうきをある程度の距離まで走らせる。


 真斗の発想に源三郎は苦笑いをする。


「まったく。わかは大胆ですな。でもお供します」


 そして源三郎も茶色の体色の愛馬、飛鷹ひようを走らせ真斗と同じ場所に向かう。


「行くぞ!じい‼」

「はい!わか‼」


 二人はキリッとした表情で手綱をしならせ、塀に向かって愛馬を走らせる。


「行け!轟鬼ごうき‼」

「飛べ!飛鷹ひよう‼」


 行き来する人々が走る轟鬼ごうき飛鷹ひように驚き、慄くなかで真斗と源三郎は軽々と愛馬で塀を超えるのであった。


⬛︎


 塀を飛び越え竹取かぐや姫の屋敷に入った真斗と源三郎は愛馬から降りて手綱を引いて屋敷の中庭を歩いていた。


「さて、美しい竹取かぐや様は何処におられるのかな?」


 そう言いながら笑顔で周りをキョロキョロする真斗を源三郎は笑顔で諫める。


わか、焦ってはいけません。屋敷の者にお尋ねしましょう。おーーーーい!誰からぬか!」


 すると屋敷の奥から誰かが小走りで現れる。


「はいはい。おや!武士の者が何用ですか?」


 開いた御格子みこしを通って縁側えんがわに白髪に白髭を生やした一人の老人が現れる。


 現れた老人に源三郎はハッとなり片膝を着いて身を低くし頭を下げ、同時に真斗も源三郎と同じく身を低くし頭を下げる。


「これは『竹取のおきな』様!我は奥州鬼龍家家臣、河上 源三郎と申します。そして我の後ろに居られますのが鬼龍家当主にして会津城城主、鬼龍 真斗であります」


 真斗は改めて深々と頭を下げて自己紹介を行う。


「竹取のおきな様。改めまして鬼龍 真斗と申します。実はこの屋敷に平安京一の美女、竹取かぐや姫が居られると聞きましたので是非、お目にかかりたく馳せ参じました」

「お爺様、誰がこの屋敷に来たのですか?」


 すると御格子みこしの奥から鮮やかな着物を着こなし、天の川の様な長い黒髪、宝石の様に輝く瞳、揚羽蝶の様な瞼の化粧と赤い紅蓮の口紅の美女が灰髪の老婆を連れて現れる。


「これは竹取かぐや。実はこのお二人は名のある武士で是非、姫にお目通りがしたいと」


 おきなが笑顔で答えると竹取かぐやはキリッとした目つきで真斗と源三郎を見る。


「貴方達!無断で馬を使って塀を超え、私の屋敷に入るとは!無礼千万!用がなければ直ぐにここを立ち去りなさい!」


 まるで天女の様な振る舞いをする竹取かぐやの姿を顔を上げていた真斗は心を奪われていた。


 そして真斗は源三郎の左隣にサッと向かいの両膝を着き深々と土下座をする。


竹取かぐや姫様、我は鬼龍家当主、鬼龍 真斗と申します。無礼な行い深々とお詫び申し上げます。実は姫のお美しい姿を一度、見たくこの様な行為をいたしました」

「それで、真斗殿も私に求婚を申し出たいのですか?」


 竹取かぐやの冷ややかな問いに真斗は顔を上げ、勇ましい表情で答える。


「はい!竹取かぐや様のお美しさに見惚れ恋をしてしまいました!是非!私と婚姻して下さい!」

「そうですか。ではいいでしょう。しかし、婚姻の条件として私が欲しい物をここに持ってくる事が条件です」


 竹取かぐやからの問いに真斗はゆっくりと頭を下げる。


「はい!竹取かぐや様がお望みの品を必ずお持ちいたします」


 するとおきながとある事を頭を下げる真斗にある事を問う。


「真斗殿、先程、家名が鬼龍と申しましたが、もしかして伊達家の?」


 真斗は再び顔を上げおきなの問いに答える。


「はい。奥州筆頭の伊達家は私の従兄で現当主の政宗様は私の伯父であります」


 真斗の問いにおきな竹取かぐやに付き添っていた老婆、竹取のおうなが喜ぶ。


「なんと!あの奥州の大名、伊達家の親族とは!婆様!これは良い求婚者が現れたぞ!」

「ええ!本当に素晴らしいですわ!竹取かぐや!今度は良い花婿かもしれませんよ!」


 しかし、竹取かぐやの心は今だに閉したままであった。


 それから竹取かぐやが望む品を聞いた真斗と源三郎は門の前で再び愛馬に乗って竹取かぐやの屋敷を後にした。


 道中、源三郎は嬉し涙を流し感激していた。


わかに仕えて二十年以上が経ちました!あれほど嫁探しに無関心だったわかがついに結婚をご決断なされた!このじいは嬉しい限りです‼︎」


 そんな源三郎の姿に真斗は苦笑いをしながら彼の背中を優しく摩る。


「そんな泣くなじい。涙は結婚式の時まで取っておけ」

「はい!分かりましたわか。しかし、如何しますか?竹取かぐや様の望む品は無理難題な物ばかりですぞ」


 源三郎の不安な問いかけに真斗は自信に満ちた笑顔で答える。


「心配するなじい。俺に妙案がある。今日の夜にでも裏平安に出向いて手に入れた物がある」

「では一旦、伊達武家屋敷に行きましょうわか

「ああ。では参るぞじい!」

「はい!わか


 そして二人は勇ましい笑顔で手綱をしならせ、愛馬を走らせるのであった。



あとがき

本作は「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ、アッパレ戦国大合戦」と「戦国BASARA」をイメージモデルにして執筆しています。

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