第二章 ホラー編⑫
悲鳴が 倒れて 詩録 血が
何が 『悪霊』 『怪物 頭から
図書 それは 何も 腕が曲
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* * *
そして、荊華は目を覚ました。
記憶の連続性が失われている。自分が先ほどまで何をしていたか思い出せない。
彼女は痛む頭を押さえながら周囲を見回す。
その光景を彼女の脳は理解することを拒んだ。いや、魂が拒絶した。
そこは奏朔高校の図書室だった。いや、正確には図書室だったと言うべきか。
図書室の本棚は全て倒れ、壁は崩壊している。だがそんなことは重要じゃない。
詩録、波瑠、智慧、凛の四人が血まみれで床に倒れていた。
見れば、そこには下半身が蛇の顔の皮が剥がれた女の形をした『悪霊』がいた。
「っっっ…………!?」
悲鳴を上げようとしたが、喉が粘ついて上手く声を上げることすらできない。
荊華は反射的に図書室から逃げ出そうとして、しかしこの図書室には倒れている詩録たちがいると思い直す。
その『悪霊』はじっと荊華の方を見ている。
それは荊華の【ストーリーライン】である【ホラー】が生み出した『怪物』。【ホラー】が持つ設定を利用して不死性を獲得した正真正銘の化け物。それが三体寄り合わさって、組み合わさってできた醜悪極まりない人外。
それはそっと、滑るようにして荊華の方に近づいてくる。
怖い怖い怖い怖い怖いっ!!!
荊華は両目一杯に涙を溜めて、子供がイヤイヤするように首を振る。だが、その醜悪な『悪霊』は逃げてくれない。むしろこちらに近づいてくる。
【ストーリーライン】とは、整合性も因果律も無視して、現実を侵蝕し日常を塗り替える現象群のことである。それには、合理性も正当性も存在しない。あるのはただ、物語としての世界観と設定だけである。
そして、【ホラー】とは最も理不尽な【ストーリーライン】の一つである。
それは、前振りも伏線もなく『怪物』や『怪奇現象』によって現実を蹂躙し、全てを台無しにする。
【ホラー】では、別に怪しげな祠を破壊せずとも、禁忌とされる土地に踏み込まずとも、突如として前触れもなく日常は破壊される。
そして、何をすれば死ぬのか何をしたから死ぬのかという因果性すら存在せず、悪人善人が問わず死に、勧善懲悪すらままならない。
さらには主人公なら死なない可愛い顔のヒロインは死なないといったルールすら存在せず情け容赦なく登場人物を全滅エンドへと突き落とすことすらある。
それは究極の不条理と理不尽の具現。
それこそが、それだからこそ、【ホラー】は【ホラー】たり得る。
何もかもを台無しにして、全てを混沌の中に引きずり込む。それこそが【ホラー】。
荊華はじりじろと迫る『悪霊』から逃げるように後ずさる。だがそんなことをしたところで全てが無に帰すなどということはわかっていた。
【ホラー】の【ストーリーライン】は荊華自身が生み出したものであり、それは罪の象徴であり、現在の詰みの状況を生み出した元凶である。
もうダメだ。何もかもおしまいだ。
そう思ったとき、倒れている四人の人影のうちの一つがぴくっと微かに動いた。
そして、その人物はよろめきながらも手近の倒れたテーブルを支えに立ち上がり、穏やかな声で呟く。
「…………解析完了。【ストーリーライン】・【ホラー】、改竄開始」
それは、血まみれで倒れているはずの波瑠だった。彼女はそっと立ち上がり、荊華の方を見ながらそう呟く。
変化は劇的だった。
波瑠の足元で深紅に輝く幾何学模様で構成された魔法陣が回転し始める。それは徐々に回転数を上げていき、魔法陣から黄金の光の柱のようなものが立ち上がる。
魔法陣がその回転数を極限まで上げた瞬間、光の柱は突如砕け散り、周囲に虹色に輝く光の粒子となって拡散した。
虹が降る。
光り輝く虹の粒子は、図書室全体にしんしんと降り積もる。そして、その光の粒子に触れたもの全てがそのシルエットを崩す。
床に散らばる瓦礫、散乱した本、倒れた本棚、それに椅子やテーブルまで。図書室に存在したありとあらゆるものが、まるでガラス細工を加工するようにぐにゃりと形を崩し、こねられ、再形成される。
図書室内に存在する物質を使って形成されるのは異形の群れ。
天使、ドラゴン、ワイバーン、グリフォン、フェニックス、フェンリル、ユニコーン、クラーケン、ペガサス、ワーウルフ、ミノタウロス、バジリスク、ケルベロス、ケルピー、ガーゴイル、スライム、エルフ、ドワーフ、オーガ、ゴブリン。
図書室の埋め尽くすほどのファンタジーの世界の住人、物理法則から大きく逸脱した身体構造を持つ生き物たちが現れた。
一方、『悪霊』もそれらの異形の群れに対抗するために自らも軍隊を生成する。
『悪霊』から伸びる影に、それがまるで水たまりのように、ポチャンという音を立てて波紋が広がる。
そして、地面から生えたようにその影から無数の真っ白な腕が飛び出した。腕は床に手をつき、腕力によって身体を影から引き上げる。
現れたのはファンタジーの生物たちに負けず劣らずの異形の群れ。
長い黒髪の身長がニメートルを超える女、ゆらゆらと蜃気楼のゆらめく実体のない白い影、異常に頭が発達した子供、三本足の西洋風の衣装に身を包んだ金髪の人形、頭がなく代わりに胸部に顔がついた一本足のナニカ、工具や刃物で武装した気味悪く笑う猿、赤いマントを羽織った怪人。
他にももっと。
一目も見ただけで魂が凍りつくような異常な容貌をした怪異の群れが次々と『悪霊』の影から這い出す。
そして、ファンタジーの怪物とホラーの化け物との戦争が始まった。
* * *
殴って、蹴って、噛んで、切って、折って、捻って、削って、割って、打って、喰って、呪って、祟って、捏ねて、掻いて、捌いて、締めて、投げて、弾いて、轢いて、挽いて、剥いて、捥いで、焼いて、潰して、刺して、犯して、侵して、冒して、裂いて、叩いて、燃やして、引きちぎって、すり潰して、そして殺す。
取り得るありとあらゆる手段を用いて目の前の法則の異なるそいつを殺す。ただそれがためだけに召喚され、使役されたものたちは己の存在意義を果たすため条理も倫理も捨て去ってただひたすらに殺し合う。
そうしてありとあらゆる暴虐が行われ、ファンタジーの怪物の群れとホラーの化け物の軍勢はまるで対消滅のようにお互いにその数を減らしていく。
そうして、一〇分とたたずに両軍はほぼ壊滅した。
相打ち。
だが、わずかにだが残っているものもいる。
ファンタジーには純白の天使が、ホラーには全ての元凶の『悪霊』が残っている。
先に動いたのは天使だった。天使はその白い翼をはためかせ、『悪霊』へと急接近する。
だが、それは『悪霊』を攻撃するためではない。
天使はその白い両腕を広げて、『悪霊』に抱きついたの。
そして抱きついたその瞬間、天使は無数の白の粒子となって砕け散る。
さっきまで天使だった白い破片が『悪霊』に降り注ぐ。
降り注ぐ白の粒子に触れた瞬間、『悪霊』のシルエットがぐにゃりと変化した。
そして、次の瞬間、思わず荊華は目を見張った。
なぜなら、『悪霊』のシルエットが歪み、砕け散ったそこに代わりに現れたのは、荊華だった。
荊華の目の前に、さっきまで下半身が蛇の『悪霊』がいたその場所に、今は、荊華と瓜二つの人物が立っている。
そのとき、荊華の中で何かが繋がった。
目の前の『悪霊』の正体がなんなのか、そのとき荊華は察したのだ。
【ホラー】の【ストーリーライン】は荊華の願いから生み出された、産み出されたものである。
ならば、それは彼女の半身、あるいは彼女の本心と言ってもいい。
それは、彼女自身なのだ。いや、厳密には彼女の願いを歪んで叶えたその成れの果てなのだ。
特別顔が良いわけでも、頭がいいわけでも、運動が得意なわけでもないし、人に誇れる特技があるわけでもない。だからそんな自分が誰かと釣り合うなんて思ってもみなかった。こんな自分と友達になってくれる人がいるなんて思わなかった。
でも、それでも寂しかった。一人でいるのはつらかった。
だから【ストーリーライン】は、荊華を人間以外の存在と友達にならせようとしたのだ。その結果生み出されたのが、数々の『怪物』たちだ。
そうか、ならば初めからやることは決まっていたのだ。
拳を握りしめて殴りかかることでもなく、拳銃の銃口を向けることでもない。
ただ、荊華は、それに、自分と瓜二つの姿をとる彼女に向かって前へ進み続ける。
それは怯えるように、荊華が一歩進めば一歩下がる。
だが、それでも荊華は歩みを止めない。
そうして、前へ進み続けると、ぴたりとそれは後退することをやめ、両者の距離は近づき、やがてゼロになる。
醜悪な見た目も、その握り締めた得物も、全て彼女が生み出し、彼女を表すものだ。
だがら全部を受け入れる。
両手を思いっきり広げ、それの身体を抱きしめる。
「……ありがとう、
きっとそれは、彼女自身が生み出した『友達』で、それと同時に彼女自身でもある。
だから、今すぐには無理でも。いつかきっと。必ず。
彼女は彼女を受け入れる。
きっとあの目つきの悪い少年はこうなることがある程度わかっていたのだろう。だからわざわざ荊華の願望を引き出した。全ては荊華自身に彼女がどうすればいいのかを理解させるために。
そうして抱きしめると、腕の中の彼女は微かに荊華に向けて微笑んだ気がした。
それが彼女の最期だった。
彼女の身体が無数の光の粒子となって溶ける。
ビキッッッッ!!!
それに合わせて、図書室、その何もない空間に白い亀裂が走った。
亀裂が、ヒビが広がり続け、それは図書室全体に波及する。もしかしたら、その亀裂は図書室を飛び出し、奏朔高校全体に広がっているのかもしれない。
そして。そして。そして。
ガシャンッッッッッ!!!!!
ガラスが床に叩きつけられるような甲高い音とともに、図書室の、奏朔高校、いやそれよりももっと広い何かが、荊華、波瑠、詩録、智慧、凛以外の全てが砕け散る。
それはまるで今までの全てが出来の悪い悪夢であったかのように。
何もかもがひび割れ、光の破片となって消えた。
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