第一章 ラブコメ編③
「モテすぎて困っています」
相談内容について尋ねると水本来都と名乗るそいつは開口一番そう言いやがった。
その瞬間、カウンターの彼──
なぜなら、『ストーリーライン』絡みの事件は、場合によっては致命的な被害が出かねない。そして、それを見過ごしたとなってはさすがに目覚めが悪い。
ここは鍛えた理性によって帰りたい衝動をねじ伏せ、どうにか相談を再開させる。
場所は図書準備室。そこで来都と詩録が向かい合って座っていた。
図書委員でもない来都は図書準備室など入ったことがないため、この部屋に入った直後は物珍しそうに周りを見回していた。
本棚とプリンター、パソコンが置かれ、部屋の隅には乱雑に教室で使うような机と椅子が積まれている。
詩録は慣れた手つきでその机と椅子の山から椅子二つを引っ張り出し、準備室の空いてスペースに向かい合うようにして並べ、その椅子に二人は腰掛けて相談を始めた。
そして冒頭に戻る。詩録が相談内容について尋ねると冒頭の暴言を来都は言い放ったのだ。
「お前ら、俺はカウンセラーじゃねーんだぞ。……とりあえず、まずは順を追ってに説明しろ。結論だけ言われてもわからん」
「わかりました。順を追って説明します。……でもやっぱりモテすぎて困ってるとしか言いようがないんですよね」
チッと舌打ちが一つ。言わずもがな、詩録である。それに気を悪くした様子もなく、来都は話し始める。
「そうですね、あれは今年の四月に転校生の女子生徒が僕のクラス──二年五組に来た頃から始まったように思います。転校生はかなり可愛くて、二年全体でもかなり噂になりました」
そうして、来都は順を追って説明を始める。
「それからですかね。妙に女の子に絡まれる機会が増えたのは。……街中でナンパされている後輩女子を助けたらその子に懐かれたり。たまたま生徒会の仕事を手伝ってから生徒会長に妙に気に入られて頻繁に声をかけられるようになったり。他になって妹が友達を連れてきて、その子にも妙に懐かれたり」
若干困り顔で語る来都に対して、どこのギャルゲーの主人公だよ、というツッコミをなんとか飲み下す詩録。そして、そのギャルゲー主人公はそんな詩録の様子に気付かず語り続ける。
「転校生の子とも妙に縁があって……。放課後、たまたま忘れ物を取りに教室に行ったら、その転校生──絵合さんが泣いてるのを見かけて。で、それから彼女の相談乗るようになってから、普段はクールで塩対応な彼女が僕にだけ拗ねたり怒ったりした笑ったりする表情を見せてくれるようになって……」
絵合葵は親の過度な期待に苦しんで悩んでいたのだが、さすがにプライバシー保護のためそこまでは言わないでおく来都。
一方。その来都の話を聞いている詩録はもう帰ろうかなと思い始めた。何が悲しくてハーレム野郎の武勇伝を聞かされなきゃならんのだ。
「あとこれは関係あるのか分からないんですが、最近幼馴染と妹がなんか距離近くて。幼馴染は最近まで周囲に揶揄われるからって距離を置いてたのに、昔みたいに家まで来て僕を起こしに来るし。思春期で顔合わせてもろくに会話しなかった妹がなんか一緒の布団で寝ようとしたり、挙げ句の果てに一緒にお風呂に入ろうとしてくるし」
そうか、無自覚系ハーレム主人公の悩み相談を受ける友達ってこんな気持ちなんだったんだな、と新しい発見をする詩録。なんかだんだん遠い目になってきた。そして、その鈍感系主人公は
「やっぱこれって普通じゃないですよね? ついこの間まで恋人はおろか友達すら誰もいなくて、学校では誰とも一言も話さず帰宅するのが普通だった僕がこんなに女の子と縁ができるのはおかしいですよね?」
そう真剣な表情で相談する来都。
それに対して、詩録はとりあえず一発ぶん殴ることにした。とりあえず、ローブの代わりに制服の上着を脱いで、あのセリフを叫ぶ。
「殴り合いじゃぁぁぁぁッ!!!!」
「ぐえっ!?」
音すらも置き去りにした詩録の拳を受け、椅子から数センチ浮き上がる来都。腹に拳がめり込んだ衝撃で呻き声が口から漏れ、そしてその後数秒間声にならない声を出しながら腹を押さえてうずくまる。
対して、さすがに顔は可哀想だから、腹に一発にした詩録は満足げに頷く。顔はやめな、ボディーにしな、というやつである。しかし、さすがの詩録も全力では殴ってない。せいぜい三割くらいの力だ。これでも加減はしたほうである。
そして、腹を押さえて呻く来都を見下ろし、ふと思う。
そうか、爆発する秘孔ってリア充に使うためにあるのかと。リア充爆発しろ(物理)なのかと。
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