第5話

『15時にここ集合ね』


 送られてきたメッセージはミナミからだった。ここ、とは添付されているURLの水族館を指しているらしい。有無を言わせぬ文章に、僕は早速出かける準備をした。


「あ、来た! シュウゴくん!」

「どうも、ミナミさん」


 ミナミはすでについていた。


「ナオヤくんを待とう!」

「来ますかねえ」

「多分くるよ」


 ミナミの言う通り少し遅れてナオヤは来た。なんだか少し嫌そうな顔をしながら。


「嫌そうな顔しないのーお仕事お仕事」

「お仕事?」

「おまえ聞いてないのか」


 なんのことかとミナミを見るとえへへと笑った。


「今日退治する怪異はここに出るのです!」


 ミナミはじゃじゃーんと言って拍手をする。僕はそのノリについていけない。


「aちゃんが教えてくれたの」


 aはそんなこともわかるのか。僕のaに聞いてみる。


「ミナミの担当の専売特許だ。ぼくはできない」


 なんだ。aにも個性があるのか。


「ただ退治するだけじゃ楽しくないからねー。お昼は遊んじゃいましょう!」


 ミナミは楽しそうに宣言した。


 それから僕たちは水族館を回った。様々な魚を見たり、イルカショーを見たりした。友だちと遊ぶこともなくなった最近では一番楽しかった。


「こんなに楽しいとさ、死んじゃいたくなるね」

「そうだな」


 ミナミとナオヤがいう。ぼくもわかるよ、と返事をした。やはりブラックドッグなんだなと実感する。


 ドーム型の水槽のところを歩く。上を見るとペンギンが優雅に泳いでいる。そこに目を取られていると、オセロの盤面がひっくり返されていくように周囲から色が消える。


「来るよ」


 ミナミがいう。周囲から奪われた色は結集して塊になった。それは、巨大な蛸へと姿を変えた。


 ぐちゃり。

 蛸が身じろぎするたびに音が鳴る。僕たちはそれぞれ武器を構えた。


 はじめにミナミが嚆矢を放つ。蛸はそれを器用に掴んだ。


「器用だなー」


 ミナミは余裕そうだ。


「前みたいに気を逸らしてくれる?」

「わかった」


 僕は早速蛸に近づく。触手の攻撃を交わしつつナイフを突き立てる。


「やかましい腕だな!」


 ナオヤも加勢してくれる。


「いっくよー」


 ミナミの矢が放たれる。矢は見事に蛸の目と目の間に刺さった。


ぶしゅうう。


 不快な音を立てて萎んでいく蛸。後には何も残らない。蛸が消えると水族館はまた元の様相に戻り、人々の話し声なども聞こえてきた。


「ふう、疲れたねー」


 ミナミの声で僕の緊張が解ける。


「そうだね」

「大して動いてないだろ」

「でも疲れるのー」


 この三人ならこれからも問題なくやっていけると思った。

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