第4話

 夜の街を駆け抜ける。いつもより身体が軽い。これがブラックドッグの能力なのだろうか。aに言われるまま進むと廃工場に着いた。薄暗い建物の奥で物音が聞こえる。


「ミナミ!」


 僕は急いで中に入った。


「え?君……きゃっ」


 ミナミが吹き飛ばされる。ミナミは身を翻してなんとか着地した。


「こんなところにいちゃあぶないよ!」


 ミナミは必死に叫ぶ。


「大丈夫です!」


 何が大丈夫なのかわからないけど大きく返事をした。


がつん!

長い脚がドラム缶を蹴散らす。暗くてよく見えないが今回の怪異は巨大な蜘蛛のようだ。


「どうしたらいい!?」

 僕はaに聞く。


「武器に聞くといい」

 aがそう言うと僕の右手にナイフが現れた。薄く輝くそれは確かな質量を持っている。


 aに言われた通り武器に聞くように集中してみる。するとある軌跡が見える。このように動け、ここを刺せと言うように。


 僕は武器の言うまま駆け出した。

 巨大蜘蛛はすばしっこく体制を変え、糸を吐く。その糸で足場を作りまた逃げる。その間にも長い脚で攻撃を仕掛けてくる。なるほどこれはチャージ時間のあるミナミの武器では苦戦するわけだ。


 僕は順次更新される軌跡を追うように動く。普段の自分では絶対にできない俊敏な動きに、高揚感が湧いてくる。


 ここだ、と武器が指し示す脚の根本にナイフを突き刺す。


 しゅううう


 そこから黒い煙が飛び出る。もう一息だ。


「ミナミ!」

「うん!」


 蜘蛛の姿勢を止めるように脚に次々とナイフを突き刺す。


「いくよ!」


 ミナミの声だ。僕は身を翻して避ける。ミナミの放った矢は蜘蛛の頭を深々と突き刺していた。


ぶしゅうう


 蜘蛛は頽れてそのあと煙になって消えていった。よかった。ミナミも僕も、助かったのだ。


「君もブラックドッグになったんだ」

「あ、うん」

「よろしくね。名前は?」

「シュウゴ」

「シュウゴくん! 助かったよー」


 ミナミは先ほどまでの戦いを思わせないほど明るい。


「俺の出る幕はなかったな」

「あ! ナオヤくん! 遅いよー」


 例のナオヤという青年が大鎌を携えて立っていた。ナオヤはニヤついた顔で僕にいう。


「お手柄だな」

「はは」


 少し褒められたような気になりながらも、こんなやつに褒められてもなと言う気持ちが湧き上がる。僕は意識して笑顔を出さないように努めた。


「じゃあ今日は撤収するか」

「ナオヤくん何もしてないじゃん! シュウゴくんはお疲れ!」

「ありがとう」

「あ、そうだ連絡先交換しよう!」

「俺はパス」

「ねーナオヤくんー。シュウゴくんは教えてくれるよね?」

「あ、うん。いいよ」

「やったあ」


 なんだかクラブ活動みたいな不釣り合いな明るさの中、その日は解散になった。

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