第137話 上級者向けのダンジョンだけ無い
「ピィ!」
スイたんが体の大きさに見合わない可愛らしい声を出すとともに割れていた海が閉じていった。
海が割れていた場所に海水が流れ込み、その反動で線状に巨大な水柱があがった。そして水柱が崩れて広がり巨大な津波となった。
海岸に巨大な津波が押し寄せるけれど、砂漠側の陸地はリーナの水魔術により阻害され、たどり着いた避難民達を襲う事は無かった。
僕が作ったジーテーアールに乗ったドリ王の幻影を天に向かって走らせて消すと、避難民からヤハー様を称える声があがった。そして避難民を率いていた代表者である老人が、ユキたんとミーたんに感謝の言葉らしいものを述べていた。
閉じた海の真ん中には、追跡してきたエメロン王国の軍人達がいた、多くの人が濁流に飲まれて亡くなったようだけど、一部は生き残ったようでなんとかおぼれないように藻掻いていた。
こんな怪しい海の道だしエメロン王国軍は追って来ないだろうという僕の予想は外れた、少し躊躇していたけれど、集団の中の偉そうな奴命令された一部の集団が恐る恐る進みだし、それに追従するように行軍した。
「生き残ったのは陸に残った一部だけになりそうね」
「うん、海面まで浮上出来ても陸までたどり着くのは難しいだろうね」
幅30kmの海峡の半分ぐらいに差し掛かった時に割れた海が崩された。海面まで浮上出来ても15km陸まで泳がないといけない。
「カールは生き残ったようね、しぶといわ」
「予想通りだね」
僕に婚約を迫ったあの男が生き残るのは想定内だったようだ。
「あんな奴、殺しちゃえば良いのに」
「まだ利用価値があるんだよ」
フローラの目は瞳孔が開いていて怖かった。僕に変な目を向けた男が生きている事がどうやら不快なようだった。
「さて、カールは自身が指揮してた兵隊はいなくなった。財宝も僕達に殆ど持ち去られている。残ったのは領民がいない痩せた土地だけ」
「ヤハイエ聖国にもダンジョンがあるんじゃ無かったっけ?」
「既に禁足の森のトレントの長老と交渉して閉鎖済みだよ。エルムの街の近くの森を紹介する代わりに、王弟の管理する港町の近くに入り口を移動して貰ったんだ」
「えっ?王弟って味方なの?」
「ううん、北部貴族独立と同時にあの港町はエメール公爵が占領するよ。あそこは元々エメール公爵領で、返還する事になっていたのに王家が反故にしただけだからね」
「そんな話を聞いた事があるかもしれない」
あそこがエメール公爵の領地だったというのは聞いたことがあったけど、占領するのか。昆布や海苔が生えているので、北部貴族たちの独立が起きたあとに行きにくくなるのは面倒だなと思っていた。だから友好的なエメール公爵領になるのはとても喜ばしい事だと思った。
「エルムの街の近くにダンジョンが開くの?」
「うん、森の奥にトレントが定着したあとだからすぐにって訳じゃ無いけどね」
「キュー、キュキュキュー」
「ウサたんがどの辺りがテリトリーになるのかって」
そうか、ウサたんはエルムの街の近くの
森の奥で生まれたんだもんな。親兄弟の事とか気になるよな。
「丁度カーバンクル達が住んでいる辺りだよ、トレントの結界で守られるから、外敵に襲われにくくなるんじゃ無いかな」
「キュー、キュー」
「ウサたんがありがとうって」
ウサたんが、タシタシと足を踏み鳴らしているので、どうやら喜んでいるようだった。そういえばウサたん体格が図鑑で見るカーバンクルと同じ感じになってるし、大人になってるんじゃ無いかな。それならそろそろお相手が必要になるかもしれないな。
「どんなダンジョンが開くんだろう」
「ヤハイエ聖国のダンジョンは中級者向けだったから同じ感じのものが開くんじゃないじゃな」
「エルムの街に出来るダンジョンは?」
「開いたばかりは弱い魔物しかいないらしいよ。だから初心者向けのダンジョンが出来るんじゃ無いかな」
エルムとリーナの所に開くダンジョンは初心者向けか。そしてエメール公爵領になる王弟が治める港町の所が中級者向け、そしてナザーラ領にあるのが超上級者向けのダンジョンか。
エメロン王国のダンジョンも初心者向けらしいし、上級者向けのダンジョンだけ無いんだな。
「上級者向けのダンジョンが出来たら良いのにな」
「リンガ帝国のダンジョンが上級者ダンジョンだよ」
「そうなんだ」
そういえばリンガ帝国の迷いの森のトレントは乙女ゲームでの魔王なんだっけ?上級者ダンジョンを作っただけの存在だけあって、凄いんだな。
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