第136話 ドリフトの神様
エメロン王国とヤハイエ聖国で戦争が起きているらしい。以前僕に婚約者になれと迫ってきてバーニィに決闘を申し込んでおきながら、不正で替え玉を使い、学校から追放されていた奴が、罪の無いヤハイエ聖国の人を虐殺しているそうだ。
戦争をしたくてしている人は勝手に殺し合えば良いと思うけど、巻き込まれる人達は可哀想だ。
マシロから、争いが嫌で逃げている人達がいるので助けようと言われて、僕は手伝う事にした。
「さぁ打ち合わせ道理にやるわよ」
「ピィ!」
俺達はヤハイエ聖国と、どの国にも所属していないほぼ砂漠に覆われた土地の間にある幅30km程度の海峡で、スイたんの背中の上にいた。
リーナがスイたんに声をかけると、体の大きさに見合わない可愛らしい鳴き声をあげて返事をし、海水を約10mの幅で真っ直ぐに割り海底を露出させた。
ヤハイエ聖国側の岸には、神の使いと思われているシロたんとミーたんに導かれた、エメロン王国の軍隊に追われていた2000人ぐらいの避難民がいた。幻影の魔術で僕達の姿は見えないようにしているので、避難民には分からない筈だ。
シロたんとミーたんが海底の道に向かうと、避難民もそれに続き海底を踏みしめながら歩き出した。
「何で神様がレーシングドライバーなの?」
「神様って言われて思い浮かんだのがこの人だったんだけど」
俺は、マシロから光魔術で海を割る神様を出して欲しいと言われたので、僕の知ってる神様の幻影を出した。けれどマシロはその神様の事が分からないようだった。
「どこが神様なの?」
「ドライビングの神様だよ」
先導するといえばマラソンの先導車が思い浮かんだ。そして車の神様といえば、ジーテーアール、そしてそれに乗るのはドリフトの王様、通称ドリ王と言われるドライビングの神様。
俺は走りの素晴らしさを見せればマシロが神様だって理解して貰えると思い、幻影を海底の道をドリ王の代名詞とも四輪ドリフトで蛇行さらながら走らせてみた。
割られた海は真っ直ぐだし、海底がとても平坦なので、迫力があまり無いけれど、それでも充分にドリ王の魅力は伝わるに違いなかった。
「えっと・・・すごいテクニックで走っている事は分かるんだけど、車に乗った神様って変じゃない?」
「ドライビングの神様も、車がなければただの人になっちゃうじゃん」
「・・・、まぁ避難民から神の乗り物として思われてるみたいだから良いか・・・」
はぁ・・・やっぱドリ王はカッコいいなぁ。
「でも随分と平坦な地形だね」
「元々この海は深くても20mも無いみたいだね、ただそれでもデコボコはしてたから土魔術で均したんだよ」
「えっ?わざわざそんな事してたの?」
「うん、道が悪いと馬車を乗り捨てないといけなくなるじゃない。荷物を捨てたら移住先で生活しにくいし、足の遅い女性や子供や老人や怪我人も歩かなきゃならなくなるから、追跡してきているカール達にすぐに追いつかれちゃうよ」
「軍隊って半日ぐらい後ろにいるんでしょ?」
「うん、だけど対岸まで30kmはあるからね、もたもたと時間かけられないよ」
「そうなんだ」
この割れた海の先にある土地は、周囲の殆どが砂漠なため人が住んでいない場所らしい。
ただ水は水魔術が使えれば飲水には困らなく出来るし、海岸線の近くであれば多少は植物も生えていて海の生き物を捕って食べる事も出来る。
砂漠の地下を流れる川の水が表面に出ているオアシスがあって、そこにも木が生えているので、そこに街を作ることも可能なんだそうだ。
「向こうにつくのはいつ頃?」
「長ければ1日かかるかな。歩きの人に合わせているしね」
「それまでずっと海を割ってるの?」
「うん、リーナとスイたんが交代でね」
「なるほど・・・」
神様の幻影は僕とフローラが交互に維持する事になっていた。フローラはエロスの弓を使い続けて来たので光魔術の熟練度が高くなっているらしく、幻影を作ることもお手のものになっている。
「追跡されないように足跡消しておいた方が良いんじゃないの?」
「わざと追跡させてるんだよ」
「わざと?」
「うん、海の中まで追いかけて欲しいからね」
「追いかけて行くかな・・・」
海が割れるという怪しさ満点の状態異常なのについていくなんてしないと思う。
「ついて行くよ」
「どうして?」
「財宝をいっぱい持って逃げてるって噂を流しておいたからね」
「欲に目がくらんでって事?」
「うん」
だからって、海が割れているんだよ?怪しすぎない?
「目の前に餌をぶら下げられたら行きたくなるもんだよ、そして軍人は上官から行けと言われたら逆らえないんだよ」
「えっ?それって上官だけ安全な所で待ってるって事?」
「うん」
何か、オルク父さんがグリフォンに殺された時みたいだな。
「それだと腐った貴族みたいな奴だけが生き残るんじゃ無いの?」
「うん、その方が良いんだよ」
悪い人ばかり生き残った方が良いってマシロは変な事を言うな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます