第135話 偶像崇拝そのものだと思うんだけど(エカテリーナ視点)

「服装はそのままなのね」

「あはは、腕に血管は浮き出てるし、腹筋は割れてるし、女性らしい体にはならなかったからね。だから露出が多い格好をするのは恥ずかしいんだよ」

「兄貴は気にしないんじゃないかな」

「そうだと嬉しいな・・・」


 私の目にいるのは性転換して女性の体になったバーニィだ。褐色で筋肉質だけど確かに女性の体になっている。

 そういった手術を受けた訳ではない、なんでも、オルクのダンジョンの隠し部屋で性転換出来る指輪を見つけたらしく、それを身に着けた事で変わったそうだ。


「この指輪をつけている時は、アニーに前世の名前で呼ばれてるんだ。それがとても心地良いんだよ」

「マシロだったわよね」

「うん、そう」

「男の体の時にはならなかったの?」

「うん、ならなかったよ」


 エバンスお兄ちゃんに名前を呼ばれるときに感じる、体が火照ってしまう感じだろうか。男の体になった経験が無いから女の体になると変わる違いが良く分からない。


「それで兄貴はどんな感じになったの?」

「可愛らしい青年になってたね。小柄だけど妙に色っぽい感じだよ。フローラなんて直接兄貴の顔が見ていられないぐらい真っ赤な顔して照れていたよ」

「さすが主人公って事かしらね」

「うん、ビリーの話では、アニーとカールは性転換した方がゲームのキャラデザインが良かったらしくて、ステータスアップの装飾品を外してでもつけている人は多かったんだって」

「へぇ・・・」


 確かにカールは見てくれだけは完璧なイケメンだったものね。線も細かったし、性転換すれば美少女になりそうな感じはする。


「カールといえば、遂にヤハイエ聖国との戦端が開かれたようね」

「すでにドンパチやってたよ。カールも後方から魔法を飛ばして大活躍だったね」

「直接見てきたの?」

「うん、酷いものだったよ。特にヤハイエ聖国は最前線にまともに魔術も使えない民衆を立たせているから、カールの魔術になすすべてもなく薙ぎ払われてたね」


 それはさぞ凄惨な光景が広がっている事だろう。


「聖堂騎士団は民衆を守ってないの?」

「勢力争いに駆り出されていて前線には殆どいなかったよ」

「国が他国に攻められてるのに勢力争い続けてるの!?」

「うん、エメロン王国の工作員もそれを煽ってるからね、まともに国を率いる事が出来る人材がいなくなってるから、良いように踊らされてるよ」


 内乱を誘発して敵国の国力を削ぐのか。なかなか知略を巡らせているようだ。


「無辜の民達はどうなるのかしら?」

「このままだと虐殺され続けるね」

「助けるの?」

「僕たちなら出来そうだけど、そうなったら狂信者となった民衆が、エメロン王国に攻めて来そうだからね。難しい所だよ」


 一致団結した時のヤハイエ聖国の民衆は強い。私達が生まれる前に停戦していたエメロン王国とリンガ帝国の戦争において、ヤハイエ聖国の参戦は反撃の転換点となっていた。

 ゲームでも、魔王との戦いにおいてヤハイエ聖国の協力が得られないビリールートでは、道中の難易度が跳ね上がるという仕様になっていた。


「何か考えているのね」

「うん、僕らの力で遠く離れた地に移動して貰おうと思っているよ」

「従うかしら?」

「ヤハー様に降臨して頂くつもりだよ」

「えっ?ヤハー様!?」

「光魔術で作ったニセモノのヤハー様だけどね」

「そんな事して怒られない?」

「許可は貰ったよ、というか面白がってくれたよ」

「面白がる?」

「うん、僕たちが考える神の姿っていうものに興味があるみたい」

「へぇ・・・」


 そういえばヤハー様ってどういう姿をしているんだろう。声だけしか聞こえないから姿は分からない。


「どんな神様を演じるの?」

「リーナが協力してくれるなら海を割ってもらいたいなと思ってるよ」

「・・・モーゼ?」

「うん、人を導いて移動させるって想像したら、あの映画のシーンが思い浮かんだんだ」

「映画?」

「あれ?「十戒」っていう映画しらない?」

「モーセが海を割って民を導いたって話は知ってるけど、映画は知らないわ」


 モーセの十戒には、偶像を崇拝するなってものもあるし、映画で描くなんて偶像崇拝そのものだと思うんだけど。


「1950年代の映画だし、リーナが知らなくても無理は無いか」

「何でそんな古い映画知ってるのよ」

「病院での時間が暇だったからね、契約してた動画チャンネルの映画は結構見たんだよ」


 そういえば、兄貴と妙に古いアニメや特撮の話をしてた事あったわね。もしかして古臭いものが好きなのかしら?

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