第134話 性転換

 宝箱の中には小さな宝箱が2つ入っていて、フローラとウサたんはそれに罠が無いか調べていった。


「宝箱に何が入ってるの?」

「ヘルマフロディトスの指輪とサルマキアの指輪っすね」

「ヘルマ・・・えっと何だって?」

「ヘルマフロディトスとサルマキアっす」


 サルマキアはともかく、ヘルマ・・・の方は覚えられたとしてもすぐに忘れてしまいそう長い名前だ。そういえば昔使ってた大鎌の名前って何だっけ?確かに恨みます的な感じの名前だったと思うけど・・・。


「何か凄い効果がある指輪なの?」

「ヘルマフロディトスの指輪は体力と筋力が下がるっすけど魔力と知力が上がるっすね。サルマキアの指輪はその逆っす」

「へぇ・・・」


 僕みたいな魔術師タイプはヘルマなんとかって指輪をつけて、バーニィみたいな戦士タイプはサルマキアの指輪を付けたら強くなりそうだな。だけど2つも加護を持つ僕やバーニィは充分強いので、マリア母さんやフローラにつけて貰った方が良いかもしれない。


「ちなみにヘルマフロディトスの指輪は女性がつけると男性になるっす。サルマキアの指輪は男性がつけると女性になるっす」

「へっ?」


 男性が女性で男性が女性?


「要は性転換出来るって事っすね。性の多様性に配慮されて実装されたものとからしいっすよ」

「えっと・・・」


 性の多様性って前世で聞いた事があったな。「紳士淑女の皆様!」って言うと、ドリルでも無い人が怒るとかそういう奴だったよな?


「あと両方つけると両性具有になるっすよ。ステータス的に恩恵無いし、アクセサリの装備枠が潰れるっすが、主人公と王子のグラが良くなるからと好んでつけさせてる人も多いらしいっす」

「リョウセイ・・・?」


 リョウセイ・・・って何だろう?いやそれよりも大事な事があるな。


「お兄ちゃん・・・」

「うん・・・」


 これは俺とバーニィに必要な指輪だという事だ。これをつけると僕は男に、バーニィは女になれる。


「アニーはこれを僕につけて欲しいと思うの?」

「それはバーニィが決める事だと思う。でも僕は男に戻りたい」


 バーニィは戻りたいと思うことは無いのだろうか。


「僕は対外的には男でいる方が良いと思っている。この国は男尊女卑だからね、アニーは性格的に領主には向いていないし、僕がやった方が良いだろう」

「うん、僕は領主の仕事なんて嫌だよ。冒険者になりたかったんだからね」

「うん、僕もそんなアニーの方が良いと思う」


 バーニィは女に戻ら無いつもりなのかな?


「男になったアニーは僕を愛してくれるかい?」

「出来ると思う、でも・・・」


 僕はヘルマなんとかっていう指輪の入った箱を持ち、僕の隣に立っているフローラにチラっと視線を向けた。


「・・・私はお兄ちゃんしか愛せない。お兄ちゃんが男に戻るなら、私はお兄ちゃん以外を受け入れたくない。お兄ちゃん以外の子供も欲しくない」

「フローラ・・・」


 フローラはバーニィを受け入れようとしていたのは知っていた。けれどそれはあくまで僕のためにという理由があったからだ。

 それがこの指輪の存在によって崩壊してしまった。僕も男に戻れると知り、男に抱かれるなんて嫌だと思ってしまっている。


「僕が男性のままアニーの隣にいる事は許してくれる?」

「それはお兄ちゃんが決める事だよ。でもお兄ちゃんが他の人に抱かれるのは嫌・・・」

「そっか・・・」


 フローラは泣き出してしまっていた。自身の言葉がバーニィを傷つけていることが分かるからだろう。


「ウナァ・・・」


 ユキんがバーニィに体をこすりつけていた。きっと慰めているのだろう。


「フローラ、僕はアニーだけを愛するようにするよ。そしてフローラとは友人のままでいる」

「バーニィ・・・」


 フローラはバーニィを嫌っていない。むしろ友人として好いているだろう。ただ男性として愛する事が出来なかっただけだ。


「僕はアニーの前で女性になる時だけ指輪をつけるよ。だからフローラ、僕がアニーに抱かれる事を許して欲しい」

「うん・・・、一緒にお兄ちゃんに抱かれよう」


 どうやらバーニィは男性と女性の使い分けをするという道を選択するようだ。


「でも僕が妊娠した時に指輪を外したらどうなるんだろう?」

「それは分からないっすね」


 そういえば、前世に水を被ると女になる主人公が出てきた漫画があったな。あの主人公も女性の時妊娠したあと男に戻ったらどうなっていたのだろうか。


「そういえば、宝箱の中身って次は何が補充されるんだろう?」

「えっ?宝箱って中身が補充されるんすか?」

「取るたびに質は悪くなっていくみたいだけどね」


 装飾品系の入ってた宝箱というと、収納リングが入っていた宝箱を思い出すけど、次に開けた時は、特別な効果の無い指輪が入ってたんだよね。オリハルコン製だったし、大きな宝石がついていたから、オークションですごい高値で売れたらしいけどさ。

 でもオリハルコン製は硬すぎて身につけるのが怖いと思うんだよね。手が浮腫んだ時にすごい痛い思いをするんだよ。

 前世でタングステン製の指輪をつけてた後輩がいたけど、仕事中に蜂に刺されて手が腫れ上がった事があったんだが、指が締め付けられて痛そうにしていた。

 病院で薬を投与されて浮腫が取れて事なきを得たみたいだけど、もう少し遅かったら指が壊死する所だったと医者に言われたそうだ。


「この部屋には他に何かある?」

「もうないっすよ」

「じゃあ戻ろう。本来の目的はビリー君のレベリングだからね」

「そうっすね」


 僕たちは元来た通路に引き返して、メタル系の湧き出すレベリングポイントに向かい、ビリーのレベル上げを行った。1日だけのレベリングだけどビリーはレベル50に到達した。ビリーは「雨」の加護晩成型では無いし、加護も2つあるため、街で暮らす分には大丈夫そうだ。

 実際にビリーは火魔術の身体強化でレベルがカンストしているフローラと同じぐらいの力の強さになっていた。

 まったく鍛えられていないので、武器の扱いは酷いままだけどね。

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