第5章 傍観する貴族令嬢になった編

第130話 乙女の顔だよ

「あれ?値上げしたの?」

「あっ・・・アニー様っ! すいやせんっ! 前の値段でお売りいたしやすっ!」

「値下げしなくていいよ、ただ何で値上げしたのか気になっただけだよ」

「すいやせん・・・」


 フローラがエルムの街に帰っていて、バーニィも何やら忙しそうだったので、チーたんとキャンディさんの家にでも向かったのだけど、クッキーやビスケットが大好きなおやつを買うため、馴染のお焼きの露店を覗いたのだけれど、なぜか1個あたり銅貨1枚だったのに銅貨2枚に値上がりしていた。


「理由はあるんでしょ?」

「へい・・・実は最近エルムの街の方から入って来る小麦や油がえらく値上がりしてるんで・・・あとついでなのかナザーラで採れる肉や野菜なんかも若干値上がりしてやす・・・」

「あれ去年不作じゃないよね?」

「えぇ、豊作だったと聞いてやす」

「それなのに値上げ?」

「店も何で値上がりしてるのか分からねぇっていってやした」


 豊作の年は値が下がるのが普通なのに何故だろう。エルム領の手数料が上がったのかな・・・。


「それなら仕方ないね、じゃあお焼き12個頂戴」

「へいっ! 2個分サービスで銅貨20枚お願いしやすっ!」

「はい20枚」

「ちょうど頂きやす、いつも通り焼き立てなんで気ぃつけて下さい」

「有り難う、お仕事頑張ってね」

「へぃっ!」


 お焼きの屋台からキャンディさんの家に行くと、ザックさんとキャンディさんが冒険者の格好をして家を出るところだった。


「あれ?出かけるの?」

「あぁっ! 丁度いい所にっ! ウサたん貸して貰えねぇか!?」

「今フローラと一緒にエルムに行ってるよ」

「ぐぁぁっ! 今がチャンスだってのにツイてねぇっ!」

「チャンス?」

「今ポーションの買取価格が値上がりしてんだよっ!」

「ええっ?ここでも値上がり?」


 食料だけじゃなくポーションも?


「あぁ、なんか王都の方から来た商人が買い漁ってるらしくてよぉ」

「王都ねぇ・・・」


 王都の方で災害が起きて怪我人が大量に出たとかしてるんだろうか。


「ウサたんがいないんじゃしょうがねぇ、効率は落ちるが何とかなんだろ」

「クッキーやビスケットは連れてくの?」

「いや、さすがにカッパーにもなってないあいつらは連れて行けねぇよ」

「じゃあ家で遊ばせてもらって良い?」

「あぁ、面倒見てくれると助かるぜ!」

「じゃあせっかくだしお焼き3つづつね」

「おっ! あんがとなっ!」


 キャンディさんはザックさんの尻を蹴飛ばすように急がせながら、ダンジョンに行く冒険者達が待合で使うことが多い、英雄オルク像がある広場の方に向かって行った。


△△△


 クッキーとビスケットとチーたんで川で魚釣りをしながらお焼きを食べ、キャンディさんの家に戻ってみんなで昼寝をしていると、2人が帰って来た。窓の外は夕焼けになっているので結構長く寝てしまっていたようだ。初夏前の爽やかな風が窓から部屋に入って来たので気持ち良すぎたからだろう。


「帰ったぞぉ」

「お帰りなさい」

「ん?クッキーとビスケットは?」

「昼寝してるよ」

「そうか・・・あんがとな」

「それでポーションは売れたの?」

「5倍の値段で売れたんだが・・・」

「5倍!? でも何か不満そうだね」

「あぁ、武器が壊れちまったんで代わりの武器を買いに行ったんだが売り切れてやがった。解体用のナイフが残ってたんだが、それでもいつもの10倍に値上がりしてやがったんだ」

「10倍!?」

「なんか王都の方から来た商人が目ぼしい武器を買い占めて行きやがったらしいんだ。そんだから修理が終わるまで仕事になんねぇんだよ」


 次に武器が品不足?一体何が起こってるんだ?


「じゃあ僕は帰るね」

「飯食ってかねぇのか?」

「うん大丈夫、お焼き食べたからお腹空いてないんだ」

「そっか・・・」


 僕はチーたんに目配せして帰ろうとすると、ザックさんが家の奥から干しブドウを持って来た。


「はい、これ治療のお礼、チーたんさんに」

「チー(ありがと〜)」

「あれ?怪我してたの?」

「キャンディの武器が壊れた時にちょっと無理してね・・・」

「チーチー(すぐに治したよ〜)」

「さすがチーたん」

「いつも助かります」

「チー!(えへん!)」


 でもいつもは怪我しているのはキャンディさんの方なのにザックさんが負うなんて珍しいな。


「この人、無理に私を庇ったんだよ・・・」

「君は僕の大切な人だからね」

「ばっ・・・バカ野郎っ・・・」


 うわっキャンディさんが乙女の顔だよ!こんなの初めて見たよ! ザックさんスゲーっ!

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