第131話 下手したら死んでたぞ?

「なんか物の値段が上がってるんだね」

「うん、どうやら王国派が戦争準備をしてるみたいなんだ」

「戦争?どこと?」

「ヤハイエ聖国だね、狙いが良く分からないけど、聖教派閥のルーベンス辺境伯が拘束されたそうだし間違いないね」

「ヤハイエ聖国?僕達が国の中枢を処分しちゃったからエメロン王国が狙ったって事?」

「処分する前から既に動きがあったらしいから違うと思う。リンガ帝国を狙っていたけれどヤハイエ聖国が混乱してからそっちに狙いを変えた可能性はあるけどね」

「なるほど・・・」


 今の国王は先王より富国強兵的な政策を取っていると言ってたし、既に前から動きがあったって事かな?


「王国派が物資を買い漁っているから滅茶苦茶物の値段が上がってるんだ。北部はまだ食料が自給出来るから良いけど、農業が余り盛んでは無い南部はかなり深刻みたい」

「あっ・・・リーナの所は大丈夫かな」


 南部は鉱業と商業と貿易だって聞いた事がある。マクレガー領には水田があったけど心配だ。


「あそこは漁業が盛んだし、穀物も自領分は賄える土地だから大丈夫だと思う。一応リーナに物資を渡したけどね」

「ナザーラ領の分は平気?」

「ヤハイエ聖国の聖職者達から巻き上げた不正蓄財の食料を渡しただけだよ。貿易港のあるマクレガー領なら、様々な国の物資が流入して来るからヤハイエ聖国の物資が出回っても不審に思われないからね」

「もしかして忙しくしてたのはそれが理由?」

「それだけじゃないよ、食料を領外の商人に売らないようにする事と、既に売られてしまって不足しそうなものをエルム領から仕入れられないか調整してたんだよ」

「うわっ・・・大変だったんだね、それでなんとかなりそう?」

「うん、フローラが手配してくれた。あと北部派閥も一斉に同じ政策をするらしいから、すぐに落ち着いて来るよ」

「僕に出来ることある?」

「ポーション集めに冒険者が頑張りすぎて怪我人続出らしいから、チーたんと診療所に手伝いに行って欲しいかな。ポーションが値上がりし過ぎて、持ってても使うのを渋ってる住民も駆け込んで来ているみたいだしね」

「分かった」


 怪我をしてもポーションを使わず病院に駆け込むなんて、本末転倒な気がするけど・・・まぁ5倍の値段で売れるならそうなっちゃうのか・・・。


△△△


「マリア母さん手伝うよ」

「有り難う、もう私しか魔力残って無かったのよ」

「ビリーは?」

「魔力を回復させるために寝てるわ」

「わかった」


 ビリーは加護が2つで熟練度も高いので治すのは早いけど、レベリングをしていないため魔力量自体はそこまで高くない。

 マリア母さんはレベルが高いので魔力も多いし熟練度が高いので魔力消費量も少ない。でも加護が1つなので治療速度に限界がある。

 そのため駆けつけた多くの冒険者達や住民をを捌ききれず待合室を溢れさせていた。


「チーたん軽症者をお願い」

「チー!(わかった!)」


 チーたんの癒しは視界が届く患者を一気に癒せる範囲型なので、治療は早いけどチーたん自体の魔力はそこまで多くないのでこんなに多いと軽症者への対処が限界だろう。

 重症者を癒やし続けるのは時間がかかるし魔力消費量も多くなるので、チーたんは軽症者を一気に治して貰って待合室の患者を減らして貰う事が正解だ。


「軽症者と重症者に分けて。軽症者は傷を水で綺麗に流して貰ったら、チーたんが止まってるあそこら辺に集めて。そうしたら一気に治して貰えるからね。軽症者は傷が内臓や骨にまでいってない傷ね。あと火傷と1日以上経過させた傷は程度によらず重症者にして」

「はいっ!」

「残った重症者は僕とマリア母さんが治すからね、1人づつやるじゃら状態が悪い人から通して、あと無理に動かしたらダメそうな場合は僕を呼んで」

「分かりましたっ!」


 僕は待合室で患者の呼び出しをしていた係員に指示を出した。

 皮膚までの傷は洗ったあと塞ぐだけで良いけど内臓や骨に達している場合は状態を見て治療法を工夫しないといけない。

 あと火傷や治りかけた傷は治し方を間違えると跡が残ってしまう。これも状態を見てから治療法を工夫しないといけない。


「じゃあ重症者を1人づつお願い」

「はいっ!」


 既に僕の話を聞いていた係員の1人が軽症者を手洗い用の蛇口の所に集めて傷を洗わせ初めていた。

 そちらに移動しているのが25人で、重症者らしい人が8人か・・・。増えないのならそこまで時間はかからなそうだな。


△△△


「助かったっす」

「ビリーはもう少し魔力を増やした方が良いよな・・・」

「うっ・・・」

「マリア母さんが何かあった時のためにもレベリングしないか?」

「うぅぅぅ・・・」

「診療所で働いてるし、グロには慣れてるだろ?」

「そっ・・・そうなんすけど・・・」

「こっちの世界はレベルって概念があるし、簡単に強くなれるんだぞ?」

「簡単じゃ無いっす!」


 何度かこうやって説得してるんだけど変わらないんだよなぁ。


「ビリーが寝ている間に駆け込んで来たリリアンさん、下手したら死んでたぞ?」

「えっ?」


 軽症者の治療が終わり、重症者が残り2人になった時に駆け込んで来た元「雷轟」13番隊のリリアンさんは、腹が切れて内臓が一部飛び出しているのをポーションで無理矢理塞ぎ、左手で潰れた右腕の付け根を押さえていた。

 出血量も多いのか待合室で倒れてしまい、僕が呼ばれて駆けつけた時は失血により貧血を起こしていて危険な状態だった。

 ちなみにリリアンさんはマリア母さんと同年で、人妻だけどビリー的にはドストライクだと聞いている。


「腕が潰れて腹から内臓が飛び出してたんだ。ビリーは「雨」の加護だし、水魔術の熟練度は僕より高い。魔力が残っていれば、僕より上手く短時間で治せただろ?」

「うっ・・・」


 実際は欠損状態の腕や、下手に塞がりかけてた腹の傷を治すのに僕だけでは無理で、チーたんの力も借りての治療が必要だったんだ。


「わ・・・分かったっす! レベリングするっす!」

「その意気だっ!」


 マリア母さん以外の女性のために頑張るといってる気がするので、それで良いのかと思うけど、ビリーが強くなれば頼りになるから、それを指摘して、奮起させたままの状態に冷水をかける事はやめておいた。

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