第128話 ヤンデレがどうとか
「出発進行!」
「「「おー!」」」
「キュー!」
「チー!(おー!)」
「グワーッ!」
「ガウッ!(おー!)」
「ナウーン!」
「ニャウーン!」
雪解けとなり朝晩はまだかなり寒いけれど、日中はかなり暖かくなってきた。
僕達はマリア母さんやお爺ちゃん達に見送られながらフローラの掛け声合図で僕達はフジたんの引く魔獣車に乗り王都に出発した。御者はキャンディさんとザックさんが交代でしてくれるそうなので、僕とフローラとバーニィとウサたんチーたんとユキたんとミーたんの他、クッキーとビスケットが車内で過ごしている。
あと、最初にザックさんが御者をするそうなのでキャンディさんも車内にいてくつろいでいる。
「気を付けてねっ!」
「注意するんじゃぞ!」
「大丈夫よ・・・ザックもいるんだし」
「キャンディ! 王都土産期待しているよっ!」
「行ってらっしゃいっすっ!」
魔獣車はトレントの長老に貰った通常の大木の幹より太い枝から取った木材で作った特注品だ。トレントの長老の枝はある程度のしなやかさがあるのに、ミスリル以上の硬度がある刃物じゃないと傷がつかないという謎素材だった。カオスの短剣に魔力を通せばスパスパ切れたので、ある程度整形までは僕がやったあとは職人に任せて作って貰ったのだけどね。
貴族用の馬車はナザーラ領に置いて置くことになった。なにせその新しく作った魔獣車はマイクロバス並みに広々としていたからだ。
ユキたんやミーたんが中で寝そべり、キャンディさんの一家が乗り込んでも、余裕をもって僕達が乗ることが出来た。
「こんなのに乗ったら他の車なんかもう乗れねぇよ!」
「うーん・・・まだ改善点がある思うんだけど・・・」
「マジかよ・・・」
椅子は充分な柔らかさをしているけれど、ゴムタイヤじゃない。
車軸は左右に貫通しているタイプだし、ローラーベアリングなどはまだ開発出来ていないので車輪を大きくして回転数を押さえるかんじにしているため車高は高い。
一応軸にはスリーブベアリングを入れて油を差してあるし、6輪なので荷重が分散してかなり摩耗は少ないと思う。
フジたんの歩みはかなり余裕そうだ。馬に比べて若干遅いけどパワーは段違いにあるので坂道でも大丈夫だろう。
「ガラスの透明度もあげたいよね・・・」
「十分だろ・・・」
窓ガラスは吹きガラス製なので円形で、それを並べたものだ。厚みが均一ではないのでガラス越しに外を見ると景色が歪んでいる。ドアも窓も木製建具のように引き戸式になっているので、そこを開ければ空気は入れ替えられるし景色も見えるようになっている。
ドアや窓が引き戸であるためか外観が少し和風っぽい感じになっている。漆塗りにすれば完璧だろうけれど、トレントの長老の木材は白い所が綺麗だったので、ワニス代わりに色の薄い桐油を薄く塗るだけいるだけにしている。
窓を開けると道行く人が驚いた顔をして僕達を見送っていた。道路には馬車職人から納車された時に通っただけなので、初めて見た領民が多いからだろう。
「アニーとフローラ、手を振って」
「分かった~」
「うん」
こういうのも領主一家としての仕事なのだろう。普段は徒歩で街を出歩いているけれど、こういう時に気取らなければならないのは何となく分かったので道行く人たちに手を振った。
「アニーも姫さんになったな・・・少し前は小僧って感じだったのによ・・・」
「僕も少しづつ変わらないといけないんだよ・・・」
「お兄ちゃん・・・」
まだ心の中は男の部分が大きいのでキャンディさんに姫さんと言われて少しだけチクっと胸が傷んだ。仕方ない事だ、僕は男装しても全く女性に見えなくなっている。少し小柄で小顔でスタイルが良くて乙女ゲームのヒロインは可愛いと綺麗が両立して育つものなんだなと思う。
「もういいよ、次はベヘム村を通る時だね」
「分かった」
「・・・」
フローラが少しご機嫌斜めな顔をしていたので、ムニュっとほっぺたを引っ張った。
「大丈夫だよ、笑って」
「いはいよおひいはん」
フローラのほっぺはとても柔らかい。顔は完全に可愛い寄りで、悪役令嬢要素は感じない。バーニィとリーナがヤンデレがどうとか言っていたけれど、優しいフローラが恐ろしい事を平気で出来るようになるとは思えなかった。
「長旅で暇だしカードでもしよう」
「「わーい!」」
カードというのはトランプと同じものだ。
乙女ゲームのミニゲームでポーカーやブラックジャックなどが遊べたらしく、この世界にも全く同じものが普通にあった。
バーニィは「僕達が転生する前にやってきた地球人が広めたんじゃないかな」と言っていた。ヤハー様も前世の記憶を持つ人が生まれる事はそれなりにいると言っていたので、そういう事もありえるのだろう。もしかして、リンガ帝国にあるという醤油や味噌もそうやって広まったのかな。
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