第126話 絶望感はもうどこにもなくなっている(エカテリーナ視点)
亜熱帯気候のマクレガー領にも寒波による強い風が吹くようになった。同じベッドで寝ているエバンスお兄ちゃんと体を寄せ合い、そのまま致す事が自然の流れのようになっている。
最近新婚初期の毎日していた頃から落ち着き、3日に1回ぐらいのペースになっていたので少し嬉しかったりする。
まだまだ2人っきりの時間が欲しいので避妊薬を飲んでいるけど、確実では無いらしいので出来てしまうかもしれない。
堕胎薬もあるそうだけど、使いたくは無いので、出来たら産むつもりでいる。
ヤハイエ聖国では新教皇の選定をする集まりがあり、枢機卿と大司教と司教がその日に聖都に集まっていた枢機卿と大司教と司教が忽然と姿を消えたと出入りの商人から教えられた。
どうやらバーニィは計画通りにヤハイエ聖国に仕返しを行ったようだ。
「なかなか混乱しているみたいよ」
「国の中心人物が揃って消えたらそうなるだろうな・・・」
枢機卿が12名中11名、大司教24名中19名、司教が48名中42名が行方不明だそうだ。
消えていない司教以上の聖職者は、加齢や健康上の問題で教皇選定日に聖都にいなかった者達で、混乱するヤハイエ聖国をどうにかする力は無いらしい。
次の地位に司祭や助祭という存在がいるそうだけど、枢機卿や大司教や司教の祭事の補助という役回りなので、ヤハイエ聖国の暗部に関しては詳しくないらしい。
「消えた人達をバーニィに聞きたいところだけれど、ナザーラは雪で閉ざされている時期だし、こちらに出てこないでしょうね」
「アリバイって奴のためか?」
「えぇ、私たちも1日1回は漁港でスイたんに会ってるしアリバイはバッチリあるわ」
「なるほど・・・そうする事で、俺たちが犯人じゃないかと難癖付けられる事は無くなるわけだ」
「そういうこと、一応揉めてはいたし、罪をでっち上げてくる可能性はあるしね」
「スイたんが屋敷まで来れなくなったからだと思ってたが、そういう理由もあったんだな」
「スイたんに会いたいって理由もあったわよ、体が大きくなっても可愛い私の子供だもの」
スイたんはどんどん体が大きくなり屋敷には置けなくなってしまっていた。
まだ小さい時に自由に泳がせたいと海に連れていってたのだけど、その時に沖の方から美味しそうな匂いがすると言いだし、「プリエデ」の3年生の夏のマクレガー領での臨海合宿イベントのレイドボスであるクラーケンを倒して捕まえてきてしまった。あまりに強請られるのでそれを食べさせたのだけれど、体がムクムクと目に見えるように成長するようになってしまっていた。
屋敷の近くを流れている運河で過ごして貰っていたのだけれど、時々海までいって巨大な海の魔獣と戦って食べていたらしく、ついには運河ですら手狭な大きさに育ってしまった。
スイたんが運河を泳ぐと、運河の水面が荒れて運河沿いの家に被害が出るようになってしまったので、漁港の近くで暮らすようにお願いしたのだ。
ただ、スイたんが海にいると、その周囲から魚が逃げてしまうらしく、普段過ごしている漁港近くは結構沖合まで行かないと魚が獲れなくなってしまった。だからスイたんの定住地を作ろうと思い、東の領境付近にある周囲が岸壁なので人の出入りがない入江への引越しを考えていた。
すぐに引っ越さないのは隣領の領主と領境交渉をしているからだ。相手は子爵家で格の上でも経済力でもマクレガー侯爵家より下だけど、貴族派に属しているので無派閥の私達に強気に出て来る可能性がある。
まぁそうなった場合は、相手の領地の沖合で魚の水揚げが激減するなんて事が起きたりするかもしれないけれど、それはスイたんの住む場所が無い状態にされたのだから仕方ないだろう。
△△△
「マギ君忘れ物は無い?」
「大丈夫だよお姉ちゃん」
「じゃあ行くか」
「うん」
私が2年前に偽装誘拐された王宮で開催されるパーティがあるので王都に向かうことになった。そのあとは、学園の年次が上がる前に行われるクラス分けのテストを受ける必要があるためエバンスお兄ちゃんはすぐに戻るけど、私とマギ君は少し長めに王都にいなければならない。
2学年ではダンジョン実習は受けなかったので、魔術と武術は実技試験で実力を示しても減点させられてしまうけれど、私もマギ君も筆記試験が問題無いのでS組は維持できると思っている。
「スイたん寂しがらないと良いけど」
「さすがにあの大きさでは連れていけないもんなぁ」
スイたんは300人乗れるという巨大な帆船より大きくなってしまった。兄貴曰く光輝竜はジェット旅客機ぐらいの大きさがあったそうだけど、既にその大きさは超えていると思う。
入江の周囲については一応金銭で片をつけマクレガー領という扱いになったのでスイたん引っ越しをしている。
屋敷の庭の木から空間移動で毎日会いに行っているけれど、近くにいないのは寂しい。だから入江の近くに別荘を建てそこで過ごそうという話になっている。
馬車であれば3時間でつける距離だし、街の方は普段代官を置けば良い。
「ギュオーン!(ママーっ!)」
「あっ! スイたん!」
「ここまで来ちゃったんだ」
スイたんは王都に向かう馬車を追いかけて、川を遡上し、橋を渡る私達を待っていたらしい。
「早く帰って来るからねー!」
「ギュワ!ギュワワーン!(うん!待ってるっ!)」
スイたんは体が大きいため橋を過ぎてもしばらく見えていた、でも川から離れるに従い小さくなっていった。
見えなくなる直前に手を振ったら「ギュワーン!」という鳴き声だけが聞えて来た。距離が離れ過ぎてしまい、心のパスが届かなかったようだ。
「周辺は大騒ぎだな・・・」
「速くテストを終わらせて帰らないといけないわね」
「そうだねお姉ちゃん!」
「プリエデ」では学園パートは結構重要な意味があったけれど、私は殆ど学園で過ごさなくなっている。青薔薇寮の自分の部屋も殆ど使っていないため空気が淀んでいる。
悪役令嬢になって殺されたくないと思っていた絶望感はもうどこにもなくなっている。
この幸せな時間がずっと続いてくれたら良いなと思っている。
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