第115話 基本的に夜行性
僕がナザーラの街に到着した日の夜、リーナが屋敷にやってきた。バーニィにマクレガーの屋敷に来てほしいと言いに来たのだ。
理由を聞くと、ユキたんの通訳をして欲しいからだそうだ。
「ユキたんは人の言葉が分かるし、お願いすれば聞いて貰えるでしょ?」
「ユキたんから事情を聞きたいのよ」
「どんな事を聞きたいの?」
「昨夜人を凍らせたのは何でなのか聞きたいのよ」
「えっ?ユキたんが人に危害を加えたの?」
「朝、屋敷の庭に知らない人間が転がってたのよ」
「知らない人間?」
「屋敷に侵入して来た人だと思うのよ」
「なるほど、ユキたんが退治してくれたのか」
「そうみたい」
マクレガーの屋敷から戻って来たバーニィに聞いたところによると、侵入者が屋敷の塀を乗り越えて、まっすぐユキたんを目指してやってきて攻撃魔術を撃って来たらしい。
ユキたんは、すぐに反撃して凍らせて放置したそうだけど、凍らされた侵入者は溶かせば生き返せる状態だったらしい。そのため風呂場で侵入者を解凍して尋問したそうだ。
その結果分かった事は、彼らは最初からユキたんの討伐を目的に屋敷に侵入してきたという事だった。
ユキたんは基本的に夜行性らしい。だから夜間は屋敷の周囲をパトロールしながら過ごす事が多い。その習慣が知られていたためか、集団は深夜に庭にいるユキたんを討伐するために侵入したそうだ。
マクレガー侯爵領の屋敷でユキたんのお気に入りは東屋にある椅子の上か、庭にある大きな二股の木の枝の上らしいのだけれど、その日は風が気持ちいい日だったそうで、夕飯を食べた後からずっと木の枝の上に寝そべっていたらしい。
ユキたんは寝そべってはいたけれど、侵入者の存在に気が付いていたので、敵意を持って近づいて来た相手の魔術は簡単に躱せたらしく、すぐに氷結のスキルでカチンコチンに固めて捕らえたそうだ。
「氷河湖での決闘の時にユキたんがつかったあの息ってそんなに強力だったの?」
「見た瞬間に冷たそうな息だと思って火魔術で体を覆ったから体の芯までは凍らなかったけど、結構強力だったよ」
「そうなんだ・・。」
普段なら有無を言わさず殺す状況だけど、事前にバーニィが人は殺しちゃだめって言い聞かせていたためいたので、蘇生出来る氷結状態にして放置していたそうだ。
「それで解凍した時に手足とか取れちゃって可哀想だったよ」
「それって解凍した時生きてるの?」
「生きてるけどすぐに失血死しちゃったよ、気が付いたら手足が無くて周囲が血の海なんて事が自分に起きたらって想像しちゃって身震いしちゃった」
「想像したくないね」
ユキたんの氷結スキルは、スキルを維持したままの状態だと仮死状態のままになるらしい。けれど氷結状態を解除して復活させる事に、少しだけ問題があったそうだ。ユキたんがスキルを発動させたままだとかなり固いのに、解除した途端に脆くなってしまうらしい。だから最初に解凍に挑戦した暗殺者はスキルを解除したあと風呂に運ぼうとした時に、力をかけた手と足がポキっと折れてしまったそうだ。
生きた状態で解凍自体は出来たけど、切断された手足から湯舟に血が・・・いやその想像はやめよう。
1人目は錯乱してしまって事情を聞く前に失血死してしまったそうだ。けれど、2人目は湯舟に入れてから解凍する事で、頭髪と指が数本無くなる程度で解凍が出来たらしい。
ギャーギャー泣き叫んでいたらしいけど、なんとか事情を聞く事が出来たので3人目以降と答え合わせをする事で侵入の目的を聞く事が出来たそうだ。
「犯人はヤハイエ聖国の人間で、王都で枢機卿本人から命令を受けたねぇ・・・エメロン王家や貴族は関係ないのかな?」
「聖教派の貴族が入国と道中の協力をしているみたいだよ」
彼らは僕達の暗殺とユキたんの討伐とヤハイエ聖国の国宝だった杖の回収を目的としていた。
元々28人の集団だったそうだけど、冒険者に扮した10人がダンジョンで返り討ち、決闘の代理人として出た対人戦に強い2名が国家反逆罪で拘束、帰省中の僕とフローラとバーニィを追った集団と別れ、残り8人でユキたんの討伐に向かったそうだ。
土砂崩れ起こした周辺を火魔術の連打で焼いたあと現場に8つの焼死体があったので、それが別れた集団の末路だったのだろう。
土魔術と水魔術の得意な奴がいたらしいので、それを使って彼らは土砂崩れを起こしたらしい。
杖は僕達の誰かの闇魔術の収納内にあると睨んでいたらしい。闇魔術に収納されたものは、当人が死んで魔力供給が絶たれると死体の近くに出現するらしく、僕達を殺したあとに回収する予定だったそうだ。
暗殺者は狂信者でもあったようで、僕やユキたんの事を神敵だと言って散々罵っていたそうだ。でも僕は教会でヤハー様と会話するぐらい仲が良いので、ヤハー教の神敵とは随分と勘違いされているなと思った。
「この件は僕に任せてよ」
「何かするの?」
「うん」
「危険な事?」
「少しね」
「何か手伝える?」
「必要な時はお願いするよ」
バーニィはこの件の処分を自分だけで付けるつもりのようだ。バーニィは僕と二人っきりで話をしている時は、女性っぽく振る舞うようにしているけれど、今日は雰囲気が少し男っぽくなっていた。僕やフローラがバーニィにいない時に狙われた事を話した時に動揺していたので、怒りによって男の部分が強く出てしまっているのかもしれない。
「今、完全に男になってない?」
「うん・・・そうだね・・・男になってた」
「僕にも手伝わせてね」
「うん」
バーニィが僕達のために危険な事をしようとするなら、僕はそれを分かち合わなければならない。それが僕にとっての男というものだからだ。
「ビリーに話さない?一応今世の親父さんだし」
「・・・それもそうだね・・・」
ビリーは枢機卿の息子だ。嫌っているけれど多少の情はあるかもしれない。何も相談せずに害を与えた時は不義理だと感じさせてしまうだろう。
△△△
「僕達は君の父親である枢機卿から命を狙われているようなんだ」
「何でっすか?」
「ヤハー教にとって都合が悪い存在だと思われているみたいだよ」
バーニィはビリーに僕達の立ち位置を説明し始めた。僕はヤハイエ聖国やヤハー教の裏の顔や枢機卿の裏の顔について初めて知った。そして、雪豹とフェンリルの存在がヤハー教にとってどういうものであるかという説明を聞く事で、僕やユキたんが狙われている理由も分かった。
「なんすかそれ」
「ビリーはヤハー教の正体を知らなかった?」
「胡散臭いと思ってたけど、そんな裏の顔までは知らなかったっす」
「そうなんだ・・・」
枢機卿は息子であるビリーにも秘密にして動いている訳か。
「場合によっては親父さんを殺してしまうかもしれないけど良いかい?」
「殺しに来てるなら手加減は不要っすよ、それにそんな酷い奴らは死んだ方が良いっす」
「分かった」
ビリーは今世の親父さんの事を嫌いだと言ってたしな、結構ドライに切り捨てられるようだ。
「俺に手伝える事は無いっすか?」
「怪しい動きをしそうな相手を見かけたら抑えて欲しい。エメロン王国ではヤハー教を信じる人は多いからね。教会の言う事を信じてナザーラの街に危害を加えようとしてくる人が出て来るかもしれない」
「なるほど・・・了解っす」
「下手に暴走されたくは無いから慎重にね」
「分かったっす」
前世でのビリーを知らないバーニィはビリーを警戒していたけれど、今度の件で信用できると思ってくれたら良いのにと思う。
ビリーは口が軽いという欠点があるので信頼はできないけれど、気の良い奴なので仲良くして欲しい相手ではあるのだ。
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