第114話 全然ツンデレじゃない(エカテリーナ視点)

 今朝はミステリー小説のような目覚めをした。何故かと言うと屋敷内で殺人事件が起きていて、使用人が叫び声を上げた事で私は起こされたからだ。

 この後、探偵役が現れて犯人を見つけ問い詰めるという展開になりそうだけど、犯人はすぐに分かってしまった。何故なら死体と思われるものは、全て凍りついていたからだ。


 私は犯人と言葉が通じないのですぐに通訳出来るバーニィを呼ぶことにした。けれど担任のシルフィー先生から兄貴とフローラの帰省について行ったので不在だと言われてしまったので、急いでナザーラの街に向かう事になった。


「リーナの所にも現れたんだ」

「という事はバーニィの所にも?」

「ううん、アニーとフローラが帰省の道中で襲われたんだ。僕はエメール公爵達と調整があって別行動していたんだよ」

「2人の時に襲われたの?」

「うん、ウサたんが気が付いてくれたから躱せたけど、下手すれば土砂に生き埋めだったそうだね」

「それってどんな状況?」

「山道を馬車で進んでいる時に、山側から魔術で土砂崩れを起こされたみたいだよ、道が崩落して沢にダム湖が出来るぐらいの奴だって言ってた」

「長雨の時に山間部で起きる災害みたいな感じ?」

「そんな感じじゃないかな?」


 なるほど、ヤハー教はユキたんだけでなく兄貴達も消そうとしたのか。


「犯人たちはどうしたの?」

「火魔術で絨毯爆撃して黒焦げにしたって」


 ダンジョン実習の時と同じように有無を言わさず皆殺しにしたのね。


「じゃあユキたんの通訳して欲しいから来てよ」

「了解」


 私はバーニィを伴ってナザーラの屋敷の庭の木を使ってマクレガー領の屋敷の庭の木に飛んだ。


△△△


 バーニィと殺人の犯人であるユキたんが会話をしている。仕事を頼まない時は面倒そうに寝そべっているだけなのに、バーニィがいると尻尾を振ってすり寄っている。バーニィはユキたんをツンデレというけれど、この様子を見るからにはデレデレにしか見えない。


「闇から急に現れて攻撃してくる奴なんて凍らせちゃって殺しちゃって問題無いよ」

「ニャウニャウ、ナオーン」

「えっ?氷を溶かせば生き返るの?」

「ニャウン、ニャウニャウ」

「えっ・・・失敗すると砕けるの?何それ怖い」


 どうやらこっちの氷漬けになった犯人たちは生きているらしい。


「リーナ、この氷漬けの人達って生きてるんだって」

「どうすれば生き返るの?」

「ユキたんが氷結を解いたあとなるべく早く溶かせば良いんだって、でも急に温度を上げ過ぎると氷が砕けて死ぬんだってさ」

「なるべく早く氷を溶かす必要があるけど高い温度を使っちゃダメってすごい難易度ね」

「獲物を新鮮に保存する時に使うスキルだから砕けて死んでも別に問題無いんだって」

「なるほど・・・」


 ユキたんに襲い掛かって氷漬けになった屋敷への侵入者は8人もいるし、とりあえず1人氷漬けから開放してみようかしら。


「凍傷の手足を温める時はぬるま湯だっけ?」

「ユキたんは天然の温泉に放り込んで溶かしてたんだって」

「なるほど・・・」


 そういえば兄貴達はユキたんと温泉に行ったと言ってわね。


「もしかして温泉の周りに魔物の骨や牙が散乱してたりしなかった?」

「散乱はしてなかったよ、隅に固めて置いてあった」

「それちゃんと拾って来た?」

「うん、売ったらいいお金になったよ」

「ふーん、さすがバーニィは抜け目が無いね」

「ん・・・あぁ・・・」


 最近バーニィは名前を呼ぶと少しだけ間が開く事がある。兄貴が一度だけバーニィの事をマシロと呼んだ事を見た事があるけど、それと関係あるのかしら?


「マシロって前世の名前?」

「えっ?何で知ってるの?」

「兄貴が一度だけバーニィをそう呼んだ事があったのよ。もしかして兄貴はバーニィの事を普段はマシロって呼んでいるのかなって」

「ううん、アニーは僕をマシロとは呼ばないよ。ただアニーの前で女性っぽく振舞う時にバーニィと呼ばれると違和感があるんだよ」

「なるほどね・・・」

「変だって思う?」

「別に・・・兄貴が女になっている事の方が気持ち悪いわよ。それに元々バーニィは兄貴の前だと少し女の子っぽくなるじゃない?兄貴の前だけ女の子に戻れてるんだなって思ってたわ」

「なるほど・・・確かに僕はアニーと話す時は少しだけ前の僕に寄せているよ」

「フローラの前でも?」

「フローラの前では少し違うかな、フローラにとって男はアニーだけで、僕の事は何とも思ってない感じなんだ。女性みたくしてもフローラとは女性同士っぽい感じにはならないしね」

「複雑なのね・・・」

「少しね・・・」


 兄貴とバーニィは心と体の性別が違う事で色々変な関係になっているようだ。


「ニャウ、ウナーン」

「あぁ・・・ごめんごめん、少し待ってて」


 放置されたユキたんが嫉妬したのか、バーニィの足に尻尾を絡めながら何かを訴えていた。


「ユキたんは何だって?」

「スキルを解いて良いのかって」

「あっ・・・それならお湯を用意するから、1人づつ解いて欲しい」

「了解」


 私は使用人を部屋に呼ぶと、大浴場に湯を張るように伝えた。

 毛皮をモフモフとされながらゴロゴロと喉を鳴らすユキたんを見て、全然ツンデレじゃないだろうと思ってしまった。

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