第112話 長柄武器が欲しいと思っていた
学園長は代理人と共に罪に問われる事になり拘束された。
決闘の代理人として指名した相手が、王宮と周囲の上位貴族の屋敷に大きな被害を及ぼす魔術を行使したと思われて国家反逆的な罪に問われているからだ。
学園長は宰相の弟だったそうで、宰相の立場も少し悪くなっているそうだ。宰相の屋敷も王宮に近かったため結構な被害にあったそうなのに大変な事だと思う。
学園の教諭にも屋敷に大きな被害が出た人がいるらしく、いくつかの講義が休みになっているらしい。
「フローラはどこを狙ったの?」
「エメール公爵の屋敷に被害は出て欲しく無いから、王宮の南側を狙ったよ」
「なるほど・・・」
貴族街は王宮を囲うように広がっているけれど、北部貴族の屋敷は北側に寄っている。だから被害にあった教諭は王宮の近くに小さな屋敷を構える法衣貴族出身や、南側に屋敷を構える貴族派出身の先生ばかりらしい。マクレガー侯爵家の屋敷も南部にあったけれど、悪趣味な屋敷だったので売り飛ばして北部の平民の住む中心から少し離れた場所に引越しをしていた。
「はい、アニーにあげる」
「あれ?僕が闘技場の外に蹴り飛ばした杖じゃない?」
「うん、ヤハイエ聖国の持つ神話級装備、アフロディーテの杖だよ」
「えっ?そんなすごいの貰って良いの?」
「大丈夫、故買屋から買ったから」
「なるほど・・・」
この世界にも善意の第三者に近い考え方があり、盗難品でも知らずに買ったのであれば所有権が認められる法律になっていた。街で明らかに放置されていたものは、拾得者が所有者であり、その拾得者から正規に買った人はその所有権を認められる。
僕が蹴り飛ばした杖を誰かが拾い故買屋に売ったのだろう。故買屋は盗品や訳あり品でも買い取る店だ。何かの訳あり品だと思っても詮索せず買い取る事を信条としている。それ故に善意の第三者の立場を担保しているのだ。
「誰が拾って故買屋に売ったんだろう?」
「女装した僕だよ、肌も白くしておいたから、僕だって分からないだろうね」
「なるほど・・・」
という事は拾ってネコババした人は存在しないのと同義だ。バーニィが本気で女物の服を着たら男だと気が付く人は少数だろう。バーニィは平均的なリンガ帝国人であるように肌が浅黒い。けれど白い化粧をすると丁度こちらの人と同じぐらいの肌色になる。ローブのフードで顔を隠してしまえばバーニィだと分かる人は皆無になるだろう。
男に戻ったバーニィが故買屋から買い戻したようなので、もう正式にバーニィのものだ。何故なら故買屋は買い主が元の持ち主からいちゃもんをつけられても、必ず自身が善意の第三者として売ったものである事を正直に証言するからだ。
「いくらしたの?」
「少し足元を見られたね。銀貨10枚で買い叩かれて、金貨3枚で買ったよ」
「買取額の30倍なんだ、でも随分と安い取引だったんだね」
神話級の装備が前世の価値に換算して約300万円というのは安すぎる気がする。
「そりゃ故買屋もこれがヤハウエ聖国の国宝なんて知らなかったからね、妙に立派な杖程度にしか理解していなかったよ」
「それで金貨3枚だったの?」
「うん、今頃金貨10万枚以上の価値があると知って悔しがっているかもね」
「ふーん・・・」
この前の決闘で、バーニィが約金貨12万枚儲けたと言っていたので、10万枚はギャンブルで儲ける金額程度かと大した事が無い金額に思えてしまう。けれど前世の価値でいうと約1000億円だしすごい金額だ。
「バーニィは使わないの?」
「その杖ってゲームではアニー専用装備なんだよ」
「そうなんだ・・・」
そういえば前世で見たこの乙女ゲームのアニメのヒロインが洞窟で手に取った光る杖がこんなデザインだったな。
「魔術の攻撃力と防御力がすごく高くなって魔力の回復も早まるんだよ。あと不壊属性がついているし重量もそこそこあるから打撃武器としても使えるかな」
「なるほど・・・」
僕の体は女性としても小柄な状態で身長が止まってしまっている。バーニィが使っている大剣のような重い装備はバランスが悪い。あと胸が無駄にデカいので激しく動くと揺れて嫌な感じがする。だから攻撃は避けるよりも盾で捌き小剣で刺すというスタイルになっていた。
ただ長い武器を持ち激しく動き回るバーニィと稽古をする際には、懐に飛び込めず防御一辺倒になってしまっていた。魔術が使える時は遠距離攻撃しつつバーニィが飛び込んで来たらカウンター狙いというスタイルをするのだけれど、狙いがバレバレなのでバーニィは飛び込んで来てはくれなくなっている。
最近バーニィとの模擬戦での負けが込んで来てしまっているので、ザーラの街のインフラのために屋敷の地下室に埋めてしまった鎌のような長柄武器が欲しいと思っていた所だったので、この杖を貰えて有難く思った。
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