第111話 股間を蹴って沈めたいから(エカテリーナ)
兄貴達から、学園のダンジョン実習中に襲撃を受けたと連絡があった。襲撃者を全てその場で処分したらしく、どんな意図がある襲撃かは不明らしい。
兄貴達は学園長室の襲撃者の死体を積み上げて恫喝まがいの事をしたらしい。学園の誰かが兄貴達を売った事は間違い無いからだ。
学園長は現在キャンサー侯爵の弟がやっている。つまり学園長は王国派筆頭となっている宰相家の息がかかっている存在だ。
学園長は、学園を疑うとは何事だと喚いて、兄貴達を退学だと言い出したそうなので、兄貴は手袋を投げつけて決闘を申し込んだらしい。兄貴は学園長辞任を要求したそうだ。
兄貴は学園長から3番目の妻になるように要求されたそうだ。その要求にフローラとバーニィが激怒して、同じ様に学園長に手袋を投げつけ決闘する事にしたらしい。
フローラの要求は相手の貴族籍の剥奪でバーニィの要求は王国からの退去だったそうだ。
学園長はフローラにも4番目の妻になれという要求をして受けたそうだけど、バーニィの決闘は受けなかったそうだ。
バーニィはリンガ帝国に働きかけ、学園長には貴族としての品格が欠如しているといういう詰問状をエメロン王国に対して送るように手配したけど、反応は期待できないと思っているようだ。
「一体何をやっているのかしら・・・」
「俺達も襲撃されるかもしれないな」
「僕たちも注意しておくよ」
エバンスとマギ君は自分たちにも襲撃があると考えているらしい。
△△△
「僕とフローラの応援に来たの?」
「えぇ・・・負けないとは思うけど一応ね」
「楽しみにしていてよ」
「分かったわ」
決闘は2対2で行う事になったらしい。兄貴は革製の胸当てに、アテナの盾とカオスの短剣を装備していた。フローラは兄貴とお揃いの革製の胸当ては同じだったけどエロスの弓を装備していた。ただしガイアの細剣は装備していなかった。
「それだけなの?」
「うん、股間を蹴って沈めたいから強い武器は要らないんだ」
「なるほど・・・」
観客席に向かうとバーニィがウサたんを膝に抱いて闘技場の防御を担当している宮廷魔術師達の動きを見張っていた。
「不正はありそう?」
「まだ見当たらないね」
「意外と正々堂々と戦う気なのかしら?」
「すごい代理人を確保しているから、不正が不要と思っているかもね」
「なるほど・・・」
決闘で実力を見せた事があるバーニィと違い、兄貴とフローラの実力はまだ殆ど知られていない。
「それで普通に勝つつもりなの?」
「普通には勝たないね」
「なるほど、兄貴がニヤリと笑うだけの何かが起きるのね」
「まぁね」
決闘者同士が入場して来た。相手はどう見てもこの国の兵士ではなく、冒険者のような出で立ちをしていた。1人は盾と槌を持った戦士という感じで、もう1人はかなり立派な杖を持った魔術師だった。
「代理人の魔術師が持ってるのってアフロディーテの杖じゃないかしら?」
「ってことは異端狩り部隊かな?」
異端狩り部隊はヤハイエ聖国の教皇直属の工作組織で、ヤハー教枢機卿の息子ビリー・フォローの攻略ルートに入った時に敵として出て来る。
「学園長は宰相の弟で中立派よね?それとも自分だけ聖教派だったのかしら?そんな設定ってゲームには無かったわよね?」
「国王派が分裂して色々変わっちゃったのかな・・・」
「学園長は兄貴とフローラを妻にしたあと、ヤハイエ聖国に売り飛ばすつもりなのかしら」
「なるほど・・・「日」の加護を持つアニーと癒しの力を持つカラドリウスを手に入る絶好の機会か、カーバンクルの凄さもナザーラの冒険者達の間で有名になってるしそっちの狙いがあってもおかしくない」
そうか、ヤハイエ聖国にとってはユキたんもそうだけど、兄貴やフローラにも利用価値があるわけか。
「まぁでも負けないわよね?」
「負ける要素が無いかな・・・」
「いくら賭けたの?」
「金貨1万枚」
「あらすごいじゃない」
「金貨2万枚も賭けた侯爵夫人がいなければほぼ総取りだったんだけどね」
バーニィには私が兄貴達に賭けた事はバレていたようだ。
△△△
「兄貴達の目的は闘技場の破壊?」
「ううん、流れ弾による王宮の破壊が目的だよ」
「なるほど・・・」
兄貴はフローラの守りに徹し、フローラは代理人の打つ魔法を迎撃するフリして攻撃を逸らして闘技場の舞台を破壊していた。アフロディーテの杖で増幅されたまま術の威力は高く、異端狩り部隊の魔術師の魔法は闘技場の外に防壁を張っている宮廷魔術師達の結界をかなり損耗させていた。
「そろそろかな・・・」
「頃合いね」
代理人の大盾持ちの戦士はアテナの盾を持つ兄貴の守りが強く責めあぐねていた。代理人の魔術師は手練れの雷魔術士だったけれど、フローラの弓から放たれる魔力の矢により逸らされて攻撃が通じていなかった。代理人の魔術師は兄貴達に決定打が無い事に業を煮やしたのか集中を高めて大魔術を行使しようとしていた。
「水と風と雷の複合魔術ね・・・雷と雹を伴った竜巻が発生するわよ」
「闘技場での決闘で使う魔術じゃないね」
「結界がちゃんと働くなら闘技場内だけで収まるという計算なんじゃない?」
「働くのならそうなったのかもね」
宮廷魔術師達の結界はかなり強固だった。だけど現在かなり魔術師達が魔力を枯渇しかかっていて息切れ寸前だ。アフロディーテの杖により増幅された3つの複合魔術を抑えきれるか甚だ疑問だ。
代理人達が魔術を放とうとした瞬間に、パリンという音が鳴って宮廷魔術師達の結界が消失した。兄貴がカオスの短剣に魔力纏わせスナップを利かせて横に振ったので、それによって飛んだ魔力の刃により消し飛んだのだろう。
そして代理人の魔術師が作った竜巻は、フローラの弓から放たれた不可視の魔力弾に乗って王城の方に飛んで行った。周囲の人にはまるで代理人が放った竜巻が王宮に放たれたように見えるだろう。
「予想外の事態だろうけど、放心したらダメだよね」
「そうだね・・・」
自らが放った魔法が明後日の方向に飛んで行った事に動揺した代理人達は呆けてしまい、兄貴とフローラによって股間を蹴り飛ばされて白目を剥き気絶してしまった。さすがにただの蹴りでオリハルコン製らしい鎧は変形しなかったようだけど、衝撃はあったようだ。
「男の人って本当に股間への衝撃に弱いのね」
「うん、けっこうきついよ」
どうやらバーニィにも経験があるようだった。
「チーたん、アニーに相手の装備を闘技場の外に蹴り飛ばすように言って?」
「チー!」
どうやらバーニィはアフロディーテの杖を回収してしまうつもりらしい。
「僕はちょっと落とし物を探しに行って来るよ」
「了解」
バーニィは、ウサたんに「飛んでった杖を追いかけて」と言いながら闘技場を出て行った。
舞台の上では兄貴とフローラが審判役より勝利宣言を受けていたけれど、観客は未だに王宮の上で猛威をふるっている竜巻に目を奪われていて、兄貴とフローラの事は殆ど注目されていなかった。
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