第110話 男にならなければならない

「お疲れ〜」

「お前ら本当に強いな・・・」

「手出し不要でしたわ」

「オルクダンジョンに比べたら弱いからね」

「だからって俺とカタリナで何とか1体と渡り合っている間に、残り4体をフローラ嬢とアニー嬢だけで片づけるとは・・・」

「まだまだ訓練不足でしたわ」


 ダンジョン実習があり、僕とフローラとバーニィとブレイブとカタリナの5人でパーティを組んで参加する事になった

 剣と盾持ちの僕とブレイブが前衛をし、僕の後ろからフローラが弓、ブレイブの後ろからカタリナが魔術、バーニィが小剣二刀流で背後を守るという編成で進んでいた。


「チー(癒すよー)」

「次、50m右折後300m先左折ね」

「キューキュー、キュー」

「左折先の小部屋で待ち伏せ、ゴブリン型4、小剣と盾持ち2、大剣持ち1、弓持ち1、杖持ち1」


 ダンジョン実習は学園から渡された地図の通りの順路に進む事だった。普段のダンジョン攻略なら、マシロの前世の知識によるダンジョン内の魔物の分布状況についての知識と、ウサたんの索敵による把握で魔物をなるべく躱しながら進んでいるので、今回は魔物と良く当たる。


「カーバンクルによる索敵にカラドリウスによる癒し・・・なんて楽なダンジョン攻略なんだ」

「去年の実習の苦労が嘘のようだわ」

「地図の縛りが無いなら、魔物と当たらない道を選ぶんだけどね」


 背後を警戒しながら地図の読み上げとグループの指揮をしていたバーニィが、ブレイブの称賛に対し不満そうに答えていた。


「キューキュー」

「ゴブリン、こちらの気配を察して小部屋の扉の左側に3匹移動、扉前で盾持ち2匹を囮にするつもりみたい」

「ブレイブは扉を開け、アニーは突進するゴブリンのガード、決して部屋に入らないように。フローラとカタリナは背後から盾持ちに攻撃、待ち伏せを相手にする前に盾持ちを片付けよう」

「「「了解」」」


 マシロは後方を警戒して戦闘には参加していない。背後の見えない所から5名の冒険者らしい人間がずっと追跡して来ているからだ。何やら怪しいけれど学園が僕たちの採点係として派遣された冒険者かもしれないので放置していた。


「お疲れ、余裕だったね」

「所詮ゴブリンだしね。さっきのウルフの方がすばしっこくて手強いよ」

「大剣が残ったよ」

「魔物の装備が残るなんて珍しいね、でもただの鉄製っぽいよ」

「いや・・・少しだけ魔力の通りが良いぞ、ヒヒイロカネが混ざってそうだ」

「じゃあ持って帰ろうか、売っぱらって美味しいものでも食べよう」


 バーニィは僕たちだけだと土魔術が無制限で使えるようなる大剣を装備するけれど、ブレイブとカタリナがいる事もあり、オルクダンジョンの宝箱から出てきたアダマンタイト製とオリハルコン製の小剣二刀流になっている。アダマンタイト製とオリハルコン製なので切れ味が鋭く、ヒヒイロカネが混ざった程度の大剣よりずっと攻撃力が高い。


「キューキュー!キュー!」

「小部屋を出た前方から5名の人が接近中、あと後方の5名も近づいて来る」

「小部屋ではさみ打ちか・・・少し戻って通路で応戦しよう、小部屋を出たら扉を土魔術で塞いでしまおう、外開きだしつっかえて入って来れないでしょ」

「なるほど・・・」


 僕たちは小部屋からもと来た道を引き返して扉を土魔術で塞いだ。ダンジョンの扉は分厚い金属製でかなり破壊が難しいそうだ、扉の前に土が積もっているのでやって来るのは無理だろう。


「リーダー気付かれてるぜ」

「チッ・・・はさみ撃ち失敗か・・・」


 ダンジョン実習中に狙われるとはね。学園から渡された地図の通りに進んだら追跡と待ち伏せを受けるなんて、色々きな臭いなぁ。


「君たちは何者だい?」

「教えるわけねぇだろ」

「そっかぁ・・・じゃあ殺されても問題ないよね」

「おいおい、ミスリル級の俺たちが学生程度に・・・」


 バーニィがその場から消えたと思ったら、リーダー以外の奴の首が飛んだ。


「へっ・・・?」

「僕たちを襲うのは自主的かい?それとも依頼主が居るのかい?」

「し・・・知らねぇ」

「知らないなら要らないね、さようなら」

「まっ・・・ま」


 バーニィは無造作にリーダーと呼ばれる人の首を切り落とした。


「ばっ・・・バーナード殿下! 何故殺したのですか!?」

「生かす価値が無いからだよ?」

「どうして」

「学生を挟み撃ちで襲う事をする奴なんてろくでも無い奴等だよ、中途半端に生かすと舐められるし逆恨みされるだけだよ、その結果として弱い身内が八つ当たりのように被害を受けたりするのさ。手加減無しに殺すって姿勢見せておいた方が、依頼を受ける人が躊躇するようになるし、襲われる被害が少なくなるんだよ」

「そんな・・・」

「君の父上はその辺を良くご存知の方だったけどね・・・」

「なっ・・・」


 僕も前世では反社と言われる組織に所属している知人が何人かいた。その人たちから舐められるとつけ込まれるという話は聞いた事があった。

 その知人の親分さんは、昔から仁義を重んじて来た極道の方だった。けれど多くの極道は大陸のマフィアの考え方を取り入れ拝金主義になっているそうだ。

 昔は抗争といえば構成員同士の取り合いだったけど、下部組織を使って縄張り内の素人さんに迷惑をかけることを厭わない仁義を失った組織が増えてしまっているらしい。

 ある日、その知人の親分さんの妻が、敵対組織の下部組織の集団の襲撃を受け亡くなったそうだ。親分さんは一部の部下だけを連れて相手のトップの家を襲撃したそうだ。そして相手の親分を含め家族を誘拐し、恫喝まがいの直談判をして手出し無用を勝ち取ったらしい。

 親分さんは体に多くの傷を負い、大事な部下を失い、上の組織の親分にケジメをしろと言われ小指も失ったそうだ。けれど上の組織同士を含めて手打ちが行われ、敵対組織がその親分さんの縄張りに手出ししてくる事は無くなったそうだ。


「さぁ、壁の向こうに奴らも片付けようか」


 バーニィはいつの間にか神話級の大剣を取り出していて扉を塞いでいた土壁を取り除き始めた。


「僕がやるよ」

「アニーが?」

「うん、僕はマシロの旦那だからね」

「うん・・・」


 僕はまだ完全にバーニィを女性として見れていない。けれどバーニィが僕の前で女性になろうと演技してのは分かる。僕は自然体で男になろうとしている。だからバーニィが男らしいことを選択した時は、僕は普段より男にならなければならないと思っていた。

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