第109話 飛びたいと思ったら飛べる
「ソラたんの飛び方って変わってるよね」
「ガァ?(そうなの?)」
「チーたんのように羽ばたかないじゃない?」
「ガァガァ?(こっちの方が早いよ?)」
「そうなんだ」
最初の頃はチーたんのように羽ばたいて飛んでいたソラたんは最近羽ばたかずスーッと滑るように空を飛ぶようになった。ソラたんの力はソラたんに投げたものを逆の方向に反射するような力だったんだけど、体を浮かせたりするようになり遂には羽ばたきもせず飛ぶようになってしまった。
「力の向きを変えるだけじゃなく強さも変えられるようになったんだ・・・」
「力の強さ?」
「うん、クロたんの力はベクトル操作でしょ?」
「反射じゃないの?」
「アニーはそう思ってたんだね・・・」
バーニィは僕にベクトル操作というものの説明を始めた。なんかこういう矢印で説明された記憶が前世の高校であったような気がする。でも殆どついて行く事が出来ずボーっと聞いていただけだったし、説明されてもさっぱり分からなかった。
「ソラたんは下に落ちようとする力の方向を操作して浮いたり飛んだりしてるんだね?」
「ガァ?(そうなの?)」
「なんかソラたんも分かってないみたいだけど」
「そうなんだ・・・」
ソラたんはどうやら感覚派らしい。魔術と違って詠唱がある訳じゃなく無詠唱が標準だしそういうものなんだろう。
「ガァガァ(あっちへ行きたいと思うと飛べるんだよ)」
「リーナのスイたんもリーナの水魔術を見て、同じことしたいと思って渦潮作ったみたいだよ」
「ガァガァ(僕もチーたんみたく素早く飛びたいと思ったら出来たの!)」
「自由に飛びたいと思ったら飛べるって良いねぇ」
飛びたいと思ったら飛べるってすごい能力だな。
「ソラたんは、チーたんのように素早く飛びたいと思ったら出来ただけだって」
「なるほど・・・」
最初に餌だと思われて警戒していたチーたんだけど、チーたんは今では姉のよう慕われている。
ソラたんはちゃんと飛べるようになるまで何度も失敗して木にぶつかったりバランスを崩して落ちたりしていた。チーたんはその度に痛がるソラたんを癒して優しく飛び方を教えていた。
今日見た感じ、小回りではまだチーたんに分があるけれど、最高速度ではクロたんの方に分があるぐらい飛ぶことが上達していた。それがベクトル操作というもので実現したものだとしても大したものだと思う。
「チー・・・(教える事が無いの・・・)」
「チーたんありがとう」
チーたんにはソラたんに飛び方の先生をお願いしていた。だけどチーたんのように羽ばたいて飛ばない方が早くなってしまったので不要になってしまったようだ。チーたんの本領は癒しだから、ソラたんに飛ぶ事を教える事が出来なくても問題無いのに、落胆してしまっていたので収納リングからマクレガー領で売っていたライチを取り出して労った。
「キュー!」
「ウサたんもライチが欲しいって」
「はいよ」
前世で売られていた冷凍もののライチと違い、マクレガー領で売っていたライチは凄い良い香りがして甘かった。ソファに座ったフローラにモフモフされて目を閉じていたウサたんも、チーたんのために用意したライチの匂いに誘われてお腹が空いてしまったようだ。
「ガァ!(僕もお腹空いた!)」
「はいはい、昨日獲った奴でしょ?」
「ガァ!(うんっ!)」
ソラたんは、ダンジョンに行った帰りに上空を飛んでいた鳩を見つけて飛んで行き、僕に「ガァ(毟って)」といって渡して来たのだ。
足に何か筒のようなものが括りつけられていたのでバーニィにどうしようか聞いたら、バーニィが筒の中に入っていた紙を取り出して「大丈夫だよ」と言ったので、気にせず収納リングの中に入れておいて、家についたあと羽を毟って内臓を取り出しておいたのだ。
行儀の良いソラたんは、きちんと毟った状態の鳥しか食べなくなった。最初は捕まえた鳥をそのまま丸呑みしていたけれど、消化に悪そうだと思ったので、市場で羽を毟られた鳥を食べさせるようにしたら、その方が美味しいと感じるようになってくれ、僕に獲った鳥を渡して来るようになった。
「僕たちもお茶タイムにしようか、今日は暑いし冷えた麦茶が良いかな」
「そういえばカサバ芋チップスを作ってあるよ」
「わ~い!」
カサバ芋とは王国の南部で栽培している荒地でも育つ芋らしい。そのまま食べると毒があるらしいけれど、薄切りにして天日干しにすると毒が抜けるらしく、その状態で市場で売っていた。そのまま揚げたら薄味でほんのり甘さを感じるポテトチップスみたいなものが出来上がった。
フローラはジャガイモで作った物よりカサバ芋で作ったチップスの方が好きらしく、お茶菓子として出すと喜ぶ。
「フジたんも食べたいの?」
「グァ!」
「沢山あるけど食べすぎないようにね」
「グァ!」
カサバ芋チップスはフジたんも好物だ。だけど油で揚げてあるし塩分も強い。スカイドラゴンは脂分の強い内臓肉や岩塩を好むらしいので大丈夫かもしれないけど、フジたんはのっそり動くので代謝が悪そうだ。塩分と脂質過多で血圧とか上がったら良くないので控え目にした方が良いだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます